「女の子とカギ」

 ある所に、秘密のカギを持った女の子がいました。

 いつからそのカギを持つようになったのか、周りの人も女の子も誰も知りません。

 女の子にしか見ることのできないカギでした。

 誰にも見えない、誰も触ることのできない。それは秘密のカギでした。


 ある日のこと、女の子が道を歩いていると、女の子の前に強盗が現れました。

 女の子は誰にも見えないカギを取り出して言いました。


『カッチリチリチリ カチリチリ

 あなたの心にカギかけた

 悪いココロにカギかけた』


 するとどうでしょう。

 強盗は急におとなしくなると、そのまますごすごと逃げ出してしまいました。



 女の子が道を歩いていると、今度は重そうな荷物を持ったお年寄りに出会いました。周りにたくさんの人たちがいましたが、見て見ぬふりをしています。

 女の子は誰にも見えないカギを取り出して言いました。


『カッチリチリチリ カチリチリ

 あなたの心のカギあけた

 優しいココロのカギあけた』


 するとどうでしょう。

 周りの人たちが、荷物を持ってお年寄りを助けてあげました。



 女の子が道を歩いていると、道端で動物が死んでいました。

 時々一緒に遊んでいた友達でした。

 とても悲しくて、悲しくて。

 女の子は誰にも見えないカギを取り出して言いました。


『カッチリチリチリ カチリチリ

 私の心にカギかけた

 悲しいココロにカギかけた』


 するとどうでしょう。

 女の子は泣き止みました。

 でも、なんだかもっと哀しくなってしまいました。

 なんだか心の中がモヤモヤして、とても嫌な気持ちです。


 女の子は誰にも見えないカギを取り出して言いました。


『カッチリチリチリ カチリチリ

 私の心のカギあけた

 悲しいココロのカギあけた』


 女の子はまた泣き出しました。

 ずっとずっと、動物のことを思って泣きました。


 そして、女の子は動物のお墓をつくってあげました。


「ロンよりショウコ」


ロン「おや、これは…お墓かな」

ショウコ「どうやら動物のお墓みたいですね。花が添えられていますよ」

ロン「大切に弔われたみたいだね」

ショウコ「命には二回死があるそうです」

ロン「それはどういったものだい?」

ショウコ「一つは命を失ったときの死」

ロン「もう一つは?」

ショウコ「大切な人たちの記憶から消えた時です」

ロン「それなら、この動物はまだ。弔った人の心の中では生きているんだね」

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