「人喰い館」
鬱蒼と茂る森の奥深くにその館はありました。
その館に名前はありません。
その館には住むべき主もいません
誰もいないその館にはひとつの言い伝えがありました。
曰く「人を喰らう館である」と。
今も一組の男女が、この館へと足を踏み入れようとしています。
これから何が起こるのか、二人は当然のことながら知る由もなありません。
「ロンよりショウコ」
ショウコ「ひどい雨ですね」
ロン「だいぶ奥まで来てしまったからね。それにしてもこんな所に屋敷があるだなんて」
ショウコ「なんだか怪しいですね」
ロン「誰も居ないのかな。扉にも鍵がかかってないよ」
ショウコ「もしかして、『人喰い館』じゃないですか」
ロン「まさかそんな…」
執事「ようこそ『人喰い館』へ」
メイド「ようこそ『人喰い館』へ」
ショウコ「やっぱり『人喰い館』じゃないですか!」
ロン「すばらしい『人喰い館』は実在していたんだ!」
ショウコ「何のんきなこと言っているんですか。食べられてしまいますよ」
執事「ご安心くださいお客様」
メイド「私どもはお客様歓迎いたします」
ショウコ「それは、『餌』としてですか?」
執事「いえいえ、お客様。そのようなことは一切ございません。昔はそのような『人喰い館』もございましたが、今ではそのようなスタイルは流行りではございません」
ロン「流行りだったんだ」
執事「私どもはお客様にサービスを提供し、お客様から少しだけ『生気』を頂戴いたします」
メイド「生気の吸収システムはこのようになっております」
ロン「どれどれ、食事だと三十パーセント、宿泊だと二十パーセント。宿泊二日以上になると十五パーセント」
メイド「はい、お客様。更にポイントカードがございまして、ご利用一回につき一ポイント。二十ポイントたまってまいりますと五パーセント還元いたします」
ショウコ「『生気』の還元って…」
執事「金銭的な料金は一切かかりません。以前は人をまるごと『喰』っておりましたが、やれ危険だの、討伐などと大変効率が悪うございました」
ショウコ「確かに、『人喰い館』って言われたら行く気にはならないわ」
執事「私どもはこの『人喰いの館』の一部でございます。お客様に満足していただき『生気』の一部を分けていただく。私どもはその『生気』を糧にしてほそぼそと生きているのでございます」
メイド「最近は、顧客満足度を上げて潤沢な『生気』運用をしている『人喰い館』もあるくらいですよ」
ショウコ「潤沢な『生気』運用って…」
ロン「どうやら、この世界もいろいろと大変みたいだね」
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