「天使のお風呂」

 見上げても見上げても誰も見ることのできないほど空高い雲の上。そこには天空のお風呂がありました。天使は天空のお風呂が大好きでした。

 でも。

 天使はいっつも雲の上のお風呂から下界を眺めてはため息ばかりついていました。

 毎日毎日、来る日も来る日も下界の人間たちは戦争ばかりしていたからです。

 下界の大地はとても乾いていました。雨も少なく、水なんてほとんどありません。

 水がないので、動物たちの数も少なく、植物もほとんどありませんでした。

 だから、人間たちはいつも空腹で、イライラしていて心はいつも満たされることがありませんでした。

 天使は、ふとあることを思いつきました。

 試しに、一滴。

 天使のお風呂のお湯をそっと下界に落としてみたのです。

 すると…

 落とした一滴は大きな湖になりました。

 やがて、湖を見つけた人間たちはそこに住み始めました。

 でも、すぐに他の人間たちがやってきて、湖の奪い合いが始まりました。

 天使は悲しくなって、もう一滴落としてみました。

 また湖が出来ました。

 奪い合いをしていた人間たちは、湖を見つけると争いをしなくなりすぐに仲良くなりました。

  天使は仲直りする人間たちを見ているとだんだんと元気になっていきました。

 そして、どんどんお風呂のお湯を下界へと落としていきました。

 やがて…

 下界には湖ができ、川ができ、大きな海が出来ました。

 海と大地には生き物があふれ、大陸は緑豊かになりました。

 昔は戦争ばかりしていた人間たちも、協力し合って、助け合いながら生活するようになりました。

 天空のお風呂は空っぽでした。

 お風呂の大好きな天使は、大好きなお風呂に入れなくなりました。

 でも。

 天使の心はとても晴れやかでした。



「ロンよりショウコ」


ロン「人は衣食足りて礼節を知るそうだ」


ショウコ「自分が満ち足りていなければ、人への配慮がないってことですか」


ロン「まずは自分達が満ち足りていなければ、他の人へ施しをすることができないのさ。他への余力がないのに施しをして自滅してしまっては本末転倒だからね」


ショウコ「それもそうですね」

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