「魔法の靴屋」

 ある村にどんな靴でも作ることができる靴屋がいました。

 その靴屋に頼めば、どんな靴でも作ってもらうことができるのです。

 ある日、その噂を聞き付けた王様が靴屋に言いいました。


「誰も作ることのできないような、私の足に合う世界でただ一つの靴を作れ」


 一週間で作ることができなければ、靴屋の家族は捕まってしまうというのです。

 靴屋は悩みました。

 誰も作ることができない靴を、一体誰が作れるというのでしょうか。

 悩んでいる内にとうとう期限は明日という日の夜。

 靴屋の前に一人の妖精が現れました。

 妖精は言いました。


「私は靴の妖精です。あなたが困っていると聞いてやって来ました」


 靴屋は妖精に王様に言われたことを伝えました。

 それを聞いて妖精は靴屋に言いました。


「今から私のいう通りに靴を作りなさい。そうすれば、誰も作ることもできない世界でただ一つの靴を作ることができます」


 次の日のことです。

 王様の前に現れた靴屋は震えながら靴を差しださいました。

 それは古ぼけた皮の靴でした。

 靴をみて王様は大いに怒りました。


「お前の家族を死刑にしてやる」


 王様の言葉を聞いて靴屋は真っ青になりました。


「いえいえ、王様。これは皮の靴に見えますが、これは魔法の靴なのでござます」


 王様は靴屋を疑いつつも、その古ぼけた靴を履いてみました。

 するとどうでしょう。

 古ぼけた皮の靴は光を放つと黄金の靴に変わりました。

 驚いている王様の目の前で靴はまた光り、黄金の靴はガラスの靴になりました。

 王様は大喜びです。


「でかしだぞ靴屋」


 王様はそう言うと、靴屋を捕らえるように家来達に言いました。


「これはいったいどういうことですか」


 靴屋は泣きながら言いました。


「この靴は私だけのものだ。お前がいなくなれば、この靴を作れる靴屋はいなくなるのだ」


 靴屋は自分が騙されていたことにやっと気づきました。

 その時です。

 靴がまた光りました。


「おお、これはすばらしい」


 ガラスの靴はこんどは羽の生えた靴になりました。

 そして、靴屋と家来達の前で羽の生えた靴は飛び上がりました。

 王様は靴を履いたまま空の彼方に飛んでいき、そのまま帰ってきませんでした。




「ロンよりショウコ」


ショウコ「靴屋はその後どうなったんですか」


ロン「暴君とはいえ、王様がいきなりいなくなったからね。はじめはお城でかなりの混乱があったみたいだよ」


ショウコ「…ですよね」


ロン「でも、結局は落ち着いたみたいだ」


ショウコ「どんなふうにですか」


ロン「見てごらん」


ショウコ「あれって、王侯貴族の行列じゃないですか…」


ロン「どうやら街の視察を行っているみたいだね」


ショウコ「ということは、王様が帰ってきたってことですか」


ロン「いや違うよ」


ショウコ「あの輿に乗っている人ってもしかして…」


ロン「そう、靴屋だよ。どうやら暴君を追い出した彼は、英雄になってしまったみたいだね」

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