2「秋が全て落ちれば」

 地面にたくさんのものが落ちるようになった。私の足元にも水が落ちた。

 こんなにたくさんのものがあるのに、私の手にはもう何も無かった。彼がいなくなった。



 もみじが落ちている。彼と去年行った並木を思い出す。

 花びらが落ちている。彼が一度だけ買ってきた花束を思い出す。

 木の実が落ちている。彼にプレゼントしてもらったピアスを思い出す。



 覚えているのは私だけ。彼は今ごろ、同じようなことを別の人にしている。そう思うと、また、私の足元に水が落ちる。

 落ちる。手のひらから、彼との思い出が落ちる。足元には水が落ちる。もみじが、花びらが、木の実が。地面が、全て無くなっていく。私もいなくなっていく。


 手のひらから水が落ちる。私が地面に落ちる。鼻に秋の地面の香りが刺さる。髪に秋の落とし物が絡まる。秋に包まれて、私は一人だと突き付けられる。手のひらから水が落ちる。

 もし、もしも、秋が全て落ちてしまったら。思うだけで、凍えきってしまった。

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