第47話 核兵器全面禁止の達成
ロシアと中国及び北朝鮮の核兵器は無効化され、アメリカによって世界に向けて公表された。
「2030年8月2日、ロシア共和国及び中華人民共和国は日本本土に対して、ミサイルによる攻撃をしました。それらは日本自衛隊の手によって迎撃されましたが、いずれも迎撃が成功しなければ市街地または自衛隊の基地に着弾して、多数の犠牲者をだしたことでしょう。
日本は我が国にとって日米安全保障条約の締結国であり、その領土を保護する義務を負った対象であります。従って我が国はロシア、中国の両国に対して、彼らの日本に対する攻撃する手段を除去することをもって報復すると宣言しました。
そして、わが国は8月7日に両国のすべての核ミサイル基地を無効化して、さらに日本に面する日本海と東シナ海沿いの軍事基地を無力化しました。その過程で、北朝鮮の核ミサイルと軍時基地も無力化することになりました。
北朝鮮の場合には、これは当該国の日本を“焦土にする”などの威嚇によるもので、同様に安保条約を適用したものです。
さて、核兵器については、多くの国が全面禁止条約締結に動いていますが、我が国は反対してきました。それは実際に使いかねない一部の国がそれを所持している以上、自ら手放すことはできないという事情、さらにそれらの国々が仮にお互いに廃棄を約束しても、それが守られる点に信頼できないという事情からです。
しかし、その一部の国であるロシアと中国及び北朝鮮の核兵器が無力化された今、わが国がそれを今後も保持する必要を感じておりません。今後の我が国の議会での議論次第ではありますが、今後核兵器禁止条約の締結に向けて我が国も動きたいと考えています。
そして、その方針には同じ核保有国でありG7の仲間である、イギリスとフランスも賛同しています」
アメリカが上記の声明を出したのは、最後のミサイルが着弾した後であったが、最初の着弾から最後までは3時間が過ぎていて、その間には徐々に事態の情報が漏れ始めていた。
最初は、中国、広州の核ミサイル基地からの携帯の連絡であり、『アメリカのミサイルによって核ミサイルが破壊された。それもWPCによる破壊のようだ』というものであった。
携帯電話のあるこの時代では、ミサイル基地の要員の個人の携帯をすべてストップすることは困難であり、機密保持の面でルーズな中国からは、携帯網を停止する前に相当な情報が洩れている。
また、ロシアからも同様な情報漏洩があり、アメリカの公表の前1時間には、世界に広くロシアと中国の核ミサイル基地をアメリカが攻撃しているという情報が飛び交っていた。
そして、アメリカの発表は日本時間午前6時であり、日本も同時に内閣官房長官からそのことは発表された。
「本日未明、アメリカ軍はロシア共和国・中華人民共和国の核ミサイル基地の全てを無効化しました。その手段は、火薬を発火させさらに核物質を安定化でさせるWPCを装備したミサイルによるものです。
現時点で、両国の核ミサイルは全て無効化されたと判断しています。 これは、ロシア・中国の両国が我が国に向けてミサイル攻撃したことに対して、今後同様なことをしないようにする日米安全保障条約上の報復です。
さらに、今後同様なことを出来ないようにするための予防措置であります。なおそれに合わせて、ロシア・中国の我が国に面する沿岸部について軍事基地の無力化を行いました。
それに伴いまして、わが国を公然と威嚇していた、北朝鮮については核ミサイルのみならず核施設の核物質の無効化と合わせて、知られている限りの軍事基地の無力化を行っています。
なお、わが国は周辺にロシア、中国、北朝鮮などの核兵器を持って我が国を脅かす国々に囲まれているために、防衛上核兵器禁止条約に参加することは叶いませんでした。しかし、今回のことで、締結の条件は整ったと考えていますので、可及的速やかに参加に踏み切りたいと思っています」
v警戒されていた3国の核ミサイルが無効化されたことは、世界中に大歓迎された。日本においても、官房長官の会見は全てのテレビ局が中継して、その日はこのニュース一色であった。
さらに、その夕刻には各新聞の夕刊の一面トップで扱われたことは無論、号外も発行された。
僕とアジャーラは京都のマンションの居間でくつろぎながらテレビを見て話し合っている。
「オサム、良かったわね。ようやく核兵器が廃絶できるようよ」
「ああ、あれはまさに必要悪というより、不必要悪だったからね。今回とは逆にアメリカなどの核兵器が無力化されて、中国とロシアや北朝鮮のみの核が残ったら大変なことになってだろうな。
世論を気にせざるを得ないアメリカだからこそ、自分のみが持っている核を廃絶という選択ができる。まあ、他の国も廃絶に応じざるを得ないだろうね」
「それに、核兵器は威力というより、環境に対する悪影響が大きすぎ、さらに非人道的すぎて実質問題としても使えない兵器だったでしょう?あのロシアですら一度も実際には使わなかったことからもわかるわ。相互破壊保障などと馬鹿な話よね。
それに、WD-WPCによって、当分はWPCを自由自在に生みだせる日本陣営は、当分武力と言う意味では安泰でしょう。ロシア、中国とも今は剣と槍に弓で戦うしかないわね。ロシアと中国が躍起になって文句を言っているけど、実際のところ報復する手段はないから、世界から笑われているね」
ちなみに、僕は今では20歳になって、K大技術研究所のWPC基礎研究室の主任研究員と、T大のWP研究所のWPC産業化研究室の主任研究員の立場であり、東京と京都を行き来する生活だ。1歳上のアジャーラはK大の物理学科の学生だけど、僕と同じWPC基礎研究室に所属している立場でもある。
それは、現状で知られている限り、WP能力において僕に次ぐパワーを持っていて、WP回路の理解度も極めて高いから、教師でもあるK大の研究者たちは彼女の能力を使いたいからである。
実際、僕はバーラムのお陰で底上げされたWP能力とWPC回路に関する知識を持っているが、基礎的な知力は多分彼女のほうが上だと思う。そして、WP能力について男女のカップルは互いに能力を高め合うことが実証されている。
多分僕とアジャーラが僅差でトップと2位というのは、僕が15歳の時にそういう関係になって彼女が急速に伸びたからだと思う。最近では近くにいれば、お互いの考えを交わすことが出来るので、同じ研究の時には大変便利だ。
20歳を超えたアジャーラは、大人の女になってますます魅力的な女性になった。出会った頃の少女の彼女は、エキゾチックな要望と細く均整の取れた肢体で人目を惹く女性であったが、今は美しさに妖艶さが交じってきた。
体も厚みを増して、胸と腰も豊かで細いウェストとの対比で稀にみる蠱惑的なバランスを保っている。だから、彼女は町中を歩くとのみならず女性の注目を集める。僕と一緒に歩くと、彼女がさりげなく僕の腕に捉まるので男からは嫉妬の目で見られ、女からは意外な目で見られる。
その女性たちの目は、『え、なんでこんな美人にこんなダサい男がくっついているのよ?』というもので、僕はひそかに傷ついている。そのように一緒に歩いている時、魅力的な女性に出会ってそっちに気を逸らしたりすると、彼女から抓られるから、とても浮気なんかはできない。
勿論僕は、好みのど真ん中で、賢くて努力家の彼女をこの上なく愛しているよ。他の女性と浮気をしたいわけではないけど、その可能性もないというのは悲しくないか?
アジャーラは学生だから、大学のある京都に住んでいて、そこのマンションに住んでいる。これは2DKの中々立派なもので、僕が京都にいるときは一緒に住んでいる。まあ、同棲生活という奴だね。
僕は彼女に、今回のアメリカのミッションの裏事情の話を少しした。
「まあ、確かにロシア、中国それに北朝鮮はよって立つプライドの元を無効にされて困っているだろうね。だけど、別に産業・経済基盤が破壊されたわけでなく、彼らの強面の源泉を破壊しただけだ。
だから、嫌われる種を除いてやったんだから、却って彼らの国民は嫌われることがなくなって、社会・経済的な面で言えば立場は好転したんじゃないかな。
まあ、なかなか周りの国から、言うことは聞いてもらえなくなるだろうけどね。実のところ、M国のミッションは結構タイミングを計って実施されたんだよ。
と言うのは、そこでWD-WPCの機能を実証すれば、ロシアや中国が日本に対して強硬手段に打ってでるのは予想されていた。だからそれに先立って、それに備える必要があったわけだ。
そのために、水噴射のWPCによるミサイル推進、水蒸気爆発のWPCさらにNI-WPCの開発も終わっていたんだ。アジャーラも絡んでいたから知っているだろう?」
「ああ、そういえばそうね。NI-WPCの開発には私も絡んでいるわね。それに、水噴射のWPCによる商用航空機はすでに就航しているし、軍用機も標準化されたし、ミサイルだってちょっといじれば推進には使えるわね」
「そうだよ。今は、人々のWPの発現で知能が上がったせいだと思うけど、いろんな物の製品化のスピードがうんと上がっているんだよ。
だから肝心のWPCの量産が出来れば、今回使ったトマホーク・ミサイル、それに日本だけでなく、アメリカ、欧州、念のためにインドについて迎撃ミサイルを必要な数を用意することは出来たけど、なかなか苦労はしたよ」
「ええ!あのM国の件、そういう裏があったの?」
「ああ。でないと愚図で、普通何もしない日本政府があんなことをするわけがないよ。少なくともG7は皆承知のことだ。まあ、言ってみればロシアと中国は、こっちの仕掛けた罠にまんまと引っかかったわけだ。
とは言え、彼らの内部に日本へのあのミサイル発射を焚きつけた奴がいるんだけどね。まあ、今のところ全体の死者は推定で100人から200人位のようで、その点はちょっと引っかかるけど、これだけのことでその程度というのは最小だと思うよ。
弾頭に爆薬を詰めていなかったロシアはともかく、中国は高性能火薬を詰めていたのだから着弾したら、犠牲者はそんなもんでは済まなかっただろうからね。
結構強引だったけど、身に覚えのある連中と、国内のどうしようもない左巻の連中は非難しているものの、全体的に世界の意識は、世界が非核化に向いているので好意的だよね。そして、僕はロシア、中国、それに北朝鮮も国民そのものは少しすれば良かったと思うようになると考えている。
まあ、これらの国も対外的には今後は弱腰というか、普通の国の態度で臨むしかないから、今までみたいに強引なことをやって嫌われないようになるだろう。そうすればこの3ヶ国の国際包囲網も緩むだろうから、国民経済的にはプラスになるよね。
もっとも中国はウイグル・チベットの闇、さらに北朝鮮は政治犯収容所などが暴かれるだろうからまたひとしきりもめ事があるだろうね。
北朝鮮は、すでに革命騒ぎが起きてドンパチやっているようだしね。ロシアは判らないけど、中国だって暴動が大幅に増えるだろうし、ウイグル、チベットには人道防衛隊を送り込む予定だから、その後始末と国内の混乱で多分共産党は倒れるだろうね」
「人道防衛隊ねえ、あれについて発表があったけど詳しくは知らないのよ。G7にオーストラリアを加えたG7+1で、人道に係わる案件にのみ係わる合同軍事部隊を創設するのだったわね?」
「まあ、基本的に意見が合う国の集まりだよね。名前が人道防衛隊で、その名の通り人道の名の元に虐殺、奴隷的労働などに対して直接現地に乗りこんで、実力をもって是正する。
中国のウイグル、チベットはすでにその対象に挙げられているし、北朝鮮の政治犯収容所もそうだ。いずれにせよ部隊はWD-WPCを装備しているし、水噴射のWPC方式の銃を持っているから、打撃力はないけど相手の武器を無力化できるので、概ね無敵に近いと思うよ。それに、僕が手伝えば“転移”が出来るからね」
「うーん、転移はちょっとWPC化が難しそうね。そうなるとオサムだけが出来るようになるわね。私ももう少しだと思うのだけど……。でも転移は、ちょっと危険すぎてWPC化しない方がいいような気がするわ。
それにしても、核廃絶となると、G7のイギリス、フランスの他にまだパキスタン、インド、イスラエルがあるわね。それに、イランが持っているという説もあるね、どうやって、手放すのかしら?」
「まあ、イギリス、フランスは手放すことには賛成している。無論、他が手放すのが条件だけどね。インドとパキスタンは、お互いのけん制のためのものだから、なかなか厄介だけど、アメリカが強制的に無効化すると言えば聞くよ。
イスラエルは言ってみれば敵に囲まれているので面倒だけど、アメリカの説得で大丈夫だろう。だけど、人道防衛隊でガザ地区の武器はすべてWD-WPCで無力化することは決まっている。
その代わりに、イスラエル軍のガザへの侵攻は禁止して、西岸地区の武装部隊は全て撤退させる。日本としてというより僕の意向でパレスチナには、WD-WPCを与えるつもりだ。
そして、ヨルダン川西岸地区のイスラエルの入植地は順次撤退させたい。元々、イスラエルはパレスチナ人が住んでいる地域に、ユダヤ人が2千年前に住んでいたという根拠で入り込んで占領したものだ。
歴史的に国を持たないが故に、ずっといじめられてきたイスラエルの人も気の毒だけど、パレスチナ人はもっと気の毒だ。まさにあの地区で起きていることも人道問題だと思う」
「うん、私も元々中央アジアのウズベキスタンだから親近感があったので、パレスチナ問題は知っているけど、元々はイスラエル建国はイギリスが焚きつけたのよね。だけど、もはやイスラエル人に出ていけとも言えないでしょうし、お互い共存するしかないわよね。それで、イラクはどうなの、核を持っているの?」
「うん、どうもロシアから流れた小型のものをもっているようだね。これは、アメリカが割り切ってロシアや中国と同じ方法で無効化するようだ。あそこは西側諸国を敵視しているからね」
「ふーん。それなら、まあ1年以内くらいに核廃絶はできそうね。それで、原子力発電はどうなるのかな?」
「核廃絶は、数を多く持っているアメリカの処分に時間がかかるので、やっぱり1年以上の時間は必要のようだね。あと、放射能を短期に減衰させることはNI-WPCで出来るけど、やっぱり危険な原子力発電は廃止というか禁止すべきという意見が強いようだね。
そもそも今の原子力発電は、核融合発電までの過渡的な設備という意味もあったけど、WPCを使ったAEE発電が主流になった時点で意味がなくなったよね。だから、AEE発電で需要を賄えるようになったら順次廃止していくことになるな。その廃炉の際の放射能物質の処分に、NI-WPCが活躍することになるよ」
「それにしても、AEE発電、自動車の車軸などの回転機器、バッテリーによる大電力供給、水噴射による飛行機の推進などWPCによって、温室効果ガスの発生を殆どゼロにすることが出来るということで大喜びしたよね。さらにその上に、核兵器廃絶までやれるということは凄いことだと思うわ。
これはバーラムの助けも勿論あるけれど、オサムのお陰が大きいよね。だから、本当に私はオサムを尊敬するわよ」
そう言って僕の顔をみるアジャーラに、僕は照れて頭を掻いて言葉を返した。
「いやあ。やっぱりどう言ってもバーラムのお陰さ。大体、バーラムが僕に憑いていなけりゃあ、アジャーラ、君にも会えなかったものね。だから、バーラムには感謝しているよ。
ちなみに、今回のことは核廃絶の話だけじゃないよ。人間は爆薬の利用によって互いを大規模に殺し合う手段を手にいれたけど、今やその爆薬を無効化する手段を見出したんだ。
そして、それに加えて今や人は極めて効率よく食料のみならず生活に必要なものを作ることができるようになった。つまり、お互いに奪い合うことなく自分たちが豊かになる方法を見出したんだ。
そこに、現状の大量殺戮が可能な武器がほぼ無力化されたのだから、僕は一気に軍備の縮小に行くと思う。まあ、人が争うのは今後も同じだけど、今までのような大規模な争いは無いようになると思うよ。というより、そうしなきゃいかん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます