第34話 医療用WPC騒動再び


 現在、医療用のWPCを活性化できるのは僕とアジャーラに姉のさつきである。その応用方法はどんどん広がっていて、医療関係の学術誌はその応用方法一色である。生産量は僕のノルマが月に200台、アジャーラが120台、姉が30台であるから、月間350台であるので、年間生産量は約4000台になる。


 一方で、WPCには寿命がある。これは24時間駆動のものの寿命が短く、運転時間使用頻度が低いものほど寿命が短い。その意味では、常時運転している発電用のWPCが最も短く、概ね1年であることが解っている。


 そして、寿命が尽きようとするWPCはWP能力者には明確に解るノイズのようなWPを発する。当然において寿命の尽きたWPCは再活性化が必要である。CR-WPCとIC-WPCも国内のものは、再活性化の必要なものが出始めているが、新規の場合の半分程度の時間で活性化が可能である。


 発電用のWPCも同様であり、その場合には新規の活性化ができないWP能力者にも活性化が可能であることが解っている。

 医療用WPCの活性化については、極めて複雑な回路の理解が必要であるが医療関係者のWP能力者はその点は問題ない者が多いので、寿命のきたWPCの再活性化は僕やアジャーラである必要はないので助かっている。


 ちなみに、アジャーラが医療用のWPCを活性化できることを知ったウズベキスタン政府は、彼女を手放したことを大いに後悔した。そして、彼女を国に戻すことを画策し始めた。その知らせは、ウズベキスタンにいる村田医師から僕に電話が入った。


「オサム君久しぶりだね。元気でやっていると思うけど、とりあえず知らせておこうと思ってね。あのね、こっちの政府がアジャーラを取り返そうとしているのよ。この前のベジータの誘拐騒ぎで、ようやく彼女が医療用WPCの活性化をしていることに気付いたらしいのね。

 多分こっちの政府から正式文書が出て、帰すようにという要請というか、彼女等個人には命令が行くことになると思うけど、オサム君としては困るでしょう?」


「うーん、そうか。ウズベキ政府は彼女のことをフォローしていなかったのですね。それで、この前の騒ぎで名前は出なかったけど、気が付いてしまったと。ああいう国ですから、国民に命令すればよいという考えなんでしょうね。

 その割に、彼女の教育費はちゃんと取り上げましたよね。でもまあ、ウズベキの知り合いには連絡を絶たせて良かったですね。彼女もそっちには特に連絡を取りたいとか。また会いたいと言う人はいなかったようですしね。


 彼女もその容貌と、それでいて優秀だったせいで、いじめられるほどではないにせよ結構孤立状態だったようですからね。僕自身は彼女が居なくなるのは困るというか、是非ずっと傍にいてほしいと思っています。勿論彼女の意向は確認しますが、万が一帰るというなら残るように説得しますよ」


「“I love you”だね。少し年齢的には早いけど、それが一番だね。生活能力はお互いに十分あるし、もう彼女には告白したの?」

 からかうように村田医師が言うのに、思わず顔がほてるのを感じて僕も応じる。


「今は育んでいるところなのです。実のところ、彼女がウズベキスタン国民である限りは、国の干渉を完全に防ぐことは困難です。だから、WPC製造㈱と彼女の帰化問題は話しあっていたのですよ」


「だけど、帰化には5年の居住が条件でしょう?だから随分時間がかかるよね」


「いや、帰化の要件の中に“特別な事情がある場合”という条項があり、これは5年の条件をカットできます。僕の姉を含めて世界に3人しかいない医療用WPCを活性化できる人材というのは要件に含まれませんか?」


「へえ、ああそういう条項もあったわね。ということはいけそうなの?」

「はい、経産大臣が閣議で要望して外務大臣が手続きを進めていますから、大丈夫でしょう」


「本人は了解しているの?」

「ええ、意向は聞いています。本人も日本に残りたいと言っています」


「その場合に、ベジータさんはどうするの?」

「お母さんはちょっと無理なのです。でも、彼女はすでに日本人男性と婚約していますから、万が一帰国命令があってもそれを盾に拒否できます」


「へえ!婚約?そういえば、病気が癒えた彼女は結構美人だったわね。まだ若いし、それに引き換え私は……」

「へえ!村田さんは独身でした?」


「そうじゃないと、ウズベキスタンの単身勤務なんてできないよ。もっとも任期ももう半年、帰ったら頑張って探すかな」

「ええ、そうですね。頑張ってください。いずれにせよ貴重な情報ありがとうございます」


「うん、安心したよ。ちゃんと対策はしているようなので。じゃあ帰ったらよろしく」

僕はまずその情報をアジャーラに伝えた。


「そうですか。やっぱり考えていた通りですね。私は生まれ育った国なので、ウズベキスタンには感謝はしています。でも、正直に言ってこれから帰国すれば、まず国の外に出してはもらえないと思っています。また私は、今後の一生を国に仕える気はありません。


 私にとって日本での生活はとっても楽しいし、なによりWP能力をお陰で自活できる自信ができました。お母さんも国ではいつも疲れていて、楽しそうなことは少なかったですが、今では良く笑うようになりました。そして、お母さんは高菜さんと婚約して、毎日が楽しそうです。


 私は、WPCのことを知って本当に興味を惹かれています。今は医療用のWPCの活性化も慣れてきて、すこし時間が出来ましたので、回路の勉強をしていて、オサムにもいろいろ聞いているでしょう?

 私は活性化だけでなく、新しい回路設計もどんどんやって、色んなWPCを作り出したいと思っています。そのためには、この国のオサムの傍にしないとだめです。

オサムも私が傍にいた方がいいでしょう?いなくてもいい?」


 彼女は日本語としては完璧だが、場違いな丁寧語が多い口調でそう言うが、僕のことをよく解っていてにっこり笑う彼女に、僕の返す言葉は一つだ。


「もちろん、傍にいてもらわないと困るよ。WPCの仕事のことだけではない。そうだなあ。ちょっとお互いに若すぎると思っていたけど、もうはっきりした方がいいね」

 作業小屋の向かいに座る彼女の後に行って、そのまま抱きしめる。彼女は立ち上がって、優しく僕の腕をほどくと体の向きを変えて正面から僕に抱き着く。


 まだ体は細いけれど、180㎝に近い僕より20㎝ほど身長が低い彼女はそのまま顔をあげ、僕が顔を近づけると目を閉じる。それまで、何度もそうしたいと思っていたけど、その夕刻僕は初めて彼女とキスをした。


 僕は16歳になったばかり、彼女は同じく16歳だけどもうすぐ17歳だから1学年上だ。僕のその年齢は最も性欲が強い時期というから、よく出会って1年間我慢をしてきただろう?


 僕は少しの間、彼女の唇をむさぼるように吸っていた。でも、このままでは行くところまで行ってしまうと理性を取り戻した。ここは、そういう場所でもないしね。

とは言え、彼女との関係も大きく前進したかな。彼女も僕のキスに積極的に応えたものね。


 それから1週間後、彼女と母のベジータさんは駐日ウズベキスタン大使館からの訪問の打診を受けて、場所としてみどり野製菓本社ビルの応接室を指定した。こちら側は当事者2人に、僕とみどり野製菓の専務取締役の母、それにベジータさんの婚約者としてみどり野製菓の高菜課長、外務省から50歳台の岸参事官が出席している。


「私は、駐日ウズベキスタン大使のアジズ・バショーラです。実はアジャーラ・ヒシャムとベジータ・ヒシャムについて、本国から命令を受けましたのでお伝えするために来ました」


 通訳を含めて、2人の随員を連れてきた大使は、外務省からの出席者に少し動揺しつつ公用語のロシア語で言い、通訳が日本語に訳す。

「どうぞ、内容を仰って下さい」

 アジャーラが平静にロシア語で言う。


「端的に申しますと、アジャーラ・ヒシャムとベジータ・ヒシャムについてはウズベキスタン国として、本人から申請のあった国籍離脱については却下します。さらに両人については、直ちに帰国するようにという命令が大統領府から出されています」


「横から失礼します。帰国には国が認めない限り国籍離脱を認めない法律があるのは存じています。しかし、我々が知る限りでは、その人が犯罪を犯していない限り、国民に帰国を命じる法律はないはずですね。もっとも例外事項があって大統領府が何でも決められるようではありますが」

 岸参事官が冷静に言う。


「ええ、大統領府は国民に帰国を命じることが出来ます。ですから……」

 大使が言いかけるのにかぶせてアジャーラがきっぱり言う。


「私は帰国しません。日本では、まだ学びたいことが沢山あります。それに、帰国したら私は国から絶対に出して貰えないと思いますし、多分WPC製作のために奴隷労働をさせられるでしょう。もっとも、国ではその回路を刻んだ素材は作れないでしょうが。どうしても帰国させるというのなら日本に亡命します」


 娘に続いてベジータが言う。

「私も、帰国しません。私は日本に来て初めて人間らしい生活が出来ています。それに、私はこちらで結婚する予定になっていますから帰国できません。政府がどうしてもと言うのなら、娘と共に亡命します」

 彼女はロシア語で交わされる言葉に戸惑っている婚約者の高菜課長を見て、日本語で言いなおす。それに対して高菜は大きく頷く。


 瞬間室内に沈黙が落ちたが、バショーラ大使はそれを想定していたように反論する。

「しかし、これは国の命令です。あなた方がウズベキスタン国の国民である限り従う必要があります」


「私は、私を生み育ててくれたウズベキスタンという国と人々を愛しています。一方で、ここ日本に来て、大いに自由を楽しんでそして学んでいます。そして、残念ながら帰国すればその両方を失うでしょう。

 だから、私は帰りません。そのため国の命令に逆らう必要がありますので、日本国に亡命を申請します」


 アジャーラがきっぱり言うのを受けて、岸参事官が言った。

「ええと、ご存じのようにわが日本が亡命を受け入れるのは割に少ないのです(実際に非常に少ない)。しかしながら、アジャーラ・ヒシャムとベジータ・ヒシャムの両氏については、わが国は受け入れる用意があります。

 主たる要因としては、まず本人が帰国することを望んでいないことです。さらに、本人の能力の希少さから言えば、帰国された場合には正に本人が言うように、実際は出来ないのに半ば奴隷労働を課せられる恐れがあることです。


 そして、わが日本が受け入れるのはアジャーラ氏の能力の希少さにより、わが国及び世界全体に明らかに利益があるからです。つまり、彼女はWP能力において傑出した才能を見せており、その一端として医療用WPCの活性化に励んでもらっています。これは回路を刻んだ素材を用意できるという環境があってこそです。


 また、彼女は今後もわが国で学ぶことで様々なWPCの開発と活性化に励んでもらえます。このように、貴国に帰るより我が国で学び働いたほうが、ずっと我が国のみならず世界に貢献できると判断しています」


 岸参事官は一旦言葉を切って、大使の顔を見て、言い返そうとする相手を遮ぎり言う。

「結局、アジャーラさんのような希少かつ有用な能力を持った人物が、現時点で日本に居て、日本の留まることを望んでいる。更には日本の外務省の職員、つまり私がそれを助けようとしている時点で、本人の希望通りするしかないと思いますよ」


 バショーラ大使は、その言葉に岸に言い返そうとして口を開いたが一旦閉じ、思い直しようにベジータに言った。

「アジャーラ。それでいいのか?お前が育った祖国に逆らうようなことをして胸は痛まないのか?」


 うーん、情に訴える手段に来たか。ここは僕が口を出そう。

「ええとですね。アジャーラは、本当は祖国のために役立ちたいと思っているのです。そして、実は短期的には帰れるようになりたい。なんと言っても生まれ育った地ですからね。でも帰ったらもう国を出ることはできない。大使閣下もそうではないと保証はできないでしょう?」


「い、いや、そんなことは……」

「大使閣下には保証する権限はないはずです。それは大統領府の誰かが決める話で、その意志決定の過程が公開されることはありません。だから、彼女の懸念は僕も正しいと思いますし、それは大いに困ります。

 実は僕とアジャーラは婚約しました。僕が16歳、彼女は17歳になったばかりなので、まだこの国では結婚は出来ないのです。それで、彼女の帰国は婚約者として拒否させて頂きますが、彼女の祖国ウズベキスタンにはWPCに関しては格別の貢献をしたいと思います。


 当面、医療用WPCについては一定の数、そうですね、今後5年間は年間CR-WPCとIC-WPCを各50台の合計100台を供給します。また発電用のWPCについて年間100セットを同じく5年間供給し、これらの維持に必要な研修生を受け入れましょう。ただ、これらは買ってもらいますよ。

 その代わり、アジャーラとベジータさんの日本への帰化を認めてください。彼女らに亡命などはさせたくはないですからね。そして、これ以上は交渉の余地はないことをご承知下さい。もし、さらなるネゴをされるなら仕方がありませんから、亡命を選びます」


 僕の言葉に岸参事官が驚いて言う。

「ええ!大丈夫ですか。そんな約束をして?」


 それはそうだ。医療用WPCはともかく、ウズベキスタンの発電能力はわずかに1250万㎾にすぎない。加えて、この国の発電所の燃料は、自国でとれるクリーンな天然ガスなので、国際比較をすると環境面からの発電用WPCの供給の優先度は低い。

 一方で、日本では発電用WPCの普及が進んではいるが、日本は現状のところ世界へ輸出する余力はほとんどないため、環境面でクリーンな天然ガスについての需要は非常に高い。だから、ウズベキ政府としては埋蔵量がさほど多くなく貴重な資源である天然ガスを出来るだけ輸出に回したい。


 それに対して、発電用のWPC100組というのは500万㎾の発電能力に相当している。だから、5年後にはウズベキスタンは現状の倍の燃料を必要としない発電能力を持つことになるのだ。だから、岸氏が可能なのか懸念したのも当然だと思うので、僕は彼の言葉に応じた。


「大丈夫です。僕か、またアジャーラが素材から作れますから。だから、僕らがノルマ外のものを作って提供先を指定すればいいだけです。ただ、WPCの提供はWPC製造抜きではできないので、無償という訳にはいきません。発電用WPCはちょっと値が張りますが、それらが手に入るなら、融資は簡単に受けることができます」


「ふーん、なるほど。バショーラ大使殿、オサム氏の話は随分貴国にとって良い話だと思いますよ。実際のところ、わが国は貴国の承認なしに亡命を認めることが出来ます。さっきオサム氏が言われたような条件はなしにですよ。

 医療用WPCも発電用WPCも、値段に比べて遥かに高い効果があることはすでに確かめられています。だから、購入ため発電所の建設のための資金調達は問題ないはずです。オサム氏の提案を受けることを提案します」


 岸氏の言葉に、バショーラ大使は俯いて考えこんでいたが、やがて顔をあげて返事をする。

「分かりました。単純に帰国を拒否され、亡命されるということだと私も立場ありませんが、オサム氏の提案については、勝ち取った条件ということで報告して国を説得してみます。私は、我々に選択の余地はないと思っていますから、本国も認めるしかないでしょう」


 結果的に、ウズベキ政府もやむを得ない選択であるとして、条件を受けいれた。そして、亡命をちらつかされる中で、最善に近い条件を勝ち取ったとして、バショーラ大使は結果的に称賛されたらしい。アジャーラとベジータの母娘も、この結果にはほっとしたようだ。やはり、母国と喧嘩別れはしたくないのだ。


 ところで、水処理用のWPCの開発については、現在で海水の淡水化の実用にすっかり染まってしまった。なにしろ、引き合いが凄いんだよ。S社が標準化したシステムは、世界中で売れに売れている。


 その中で、WPC製造㈱の野上社長に淡水化の話を持ち掛けたサウジア国は、すでに既存の淡水化装置の入れ替えを始めており、さらに現状の2倍の規模の合計100万㎥/日の能力の設備の設計を始めている。同様に、経済的に余裕のある産油国は全てが既存のRO設備の入れ替えと、浄水施設の増設を始めた。


 このように、産油国が一斉にRO設備の更新に走ったのは、運転費のみで1㎥で千円を上回るRO設備に比べD-WPCでは10円足らずなのだから、一刻でも早く入れ替えた方が得なのだ。


 これは、日本で発電所が一斉にWPC方式に交換されたのと事情が似ている。その意味では、この程度のコストで済むのならということで、農業用水にこの淡水化を使おうという検討が始まっている。


 ちなみに、最初に淡水化のWPC設備を標準化したのでS社であったが、日本には他にも大手の水処理会社は5社ほどあり、K大から卒業生が入社している。そして、淡水化のDS-WPCそのもののノウハウはK大と僕が握っている。だから、S社が世界の需要を独占することは不可能であるしその能力もない。


 とは言えS社は概ね1年の先行者としての利益は十分に上げることが出来たし、最初から独占はさせないとの話はK大とWPC製造㈱から受けているので、不満はない。

 ところで、僕は大使館との話で元々水処理WPCの開発を始めたのは、アジャーラの故郷での水質問題であったことを思い出した。


 それは、彼女の故郷の地区に水量が豊富な井戸があるが、毒物であるヒ素の濃度が高く、沢山の人がヒ素中毒にかかった。特にアジャーラの母のベジータは重体だったのだが、それを僕が治したのが彼女とのそもそものなり染めだ。


 ヒ素を取り除くWPCは開発して、処理水とヒ素が濃縮された排水の割合を濃度にもよるが10:1~100:1に出来ると突き止めている。問題はヒ素を高濃度に含んだ分離水の処分である。


 アジャーラの故郷のベートラ地区の井戸水のヒ素濃度は2~3mg/Lであり、水道水基準の百倍を超えている。用水として使うWPCによる処理水は、ほぼ0であるので問題はない。


 だが、この場合の分離水は1/10の量なので分離水のヒ素の濃度は10倍に濃縮され極めて危険であるため捨てるわけにはいかない。無論これを化学的に処理することは可能であるが、複雑でコストのかかる設備になるので、地元でお守りをすることは難しい。


 結局ここで詰まってベートラ地区用として設備を提供するのはためらっていた。しかし、S社はこれで十分として、バングラディシュの比較的濃度の低い井戸用に使って処理水を化学処理する手法で処理設備を建設中である。


 しかし、それも最近解決できた。処理速度は遅いがWPCを使ってイオン化傾向を調整して特定のイオンを吸着することに成功したのだ。装置としては、どこでも買える普通の鉄製の網を、水槽内に吊るしてこれに通電したWPCを接続する。


 この状態で10分程度の滞留時間で槽内を撹拌することで99%の除去率を得ることができる。1段では放流基準の0.1mg/L以下にはならないが、2段にすれば十分である。1段目の網は6ヵ月に1回交換すればよく、2段目の網は10年間以上使える。


 網については毒物が付着しているので、練ったモルタル(セメントと砂の混合物)で覆うことで無害化する。ベートラ地区に必要な日量150㎥/日の給水量の規模では、網のサイズは1m×0.5m程度なので処分コストはポンプの電気代の10%程度である。


僕は、このシステムをアジャーラと一緒にウズベキスタンの日本大使館に持ち込んだ。アジャーラ達の帰化への同意をもらった時に、最初の供給分として、すでにCR-WPCとIC-WPC各20台を大使館経由で送っているので大使館は非常に愛想は良い。


 彼らは、今後も入ってくる医療用WPCを使って中央アジア諸国のみならず東欧まで影響力を伸ばそうとしているようだ。だから買い取り費用は喜んで自ら用意した。

 また、発電用のWPCについては、医療用WPCのようにそのまま使えるものではない。既存の発電所に設置するにしても銅シリンダーを中心とする設備が必要であり、彼らにはそのノウハウがない。


 彼らは、外務省の斡旋で日本のM銀行から融資を受けて資金を用意して、必要な機器を日本で発注するとともに50人からなる専門家の研修チームを日本に送り込んできた。

 WPC製造㈱の売り渡し証明書は日本の銀行が融資を実施するだけの値打ちがあるのだ。それはそうだ。この場合の投資は電力量を据え置いた場合は数ヶ月で取り返せるのだから。


 僕とアジャーラを迎えたのはバショーラ大使に加えて3人だったが、一人は日本に研修に来ている水処理の専門家で、アジズと言う30歳代の人だ。僕はまずベートラ地区に係わる経緯の話をして、その地区のヒ素交じりの井戸水の処理装置を寄付したい旨を申しいれた。


「いや、それは有難い。それは、アジャーラも育った地区に大きな貢献をすることになりますね」

 大使が言い、それにアジズが続ける。


「これは素晴らしいシステムです。我が国にはヒ素の濃度が高くて使えない地下水が多いのですが、数としては塩分が高すぎて使えないもの、さらに硬度が高いものの方が多いのです。またm地下水のみならずアイダール湖など広大なのに塩分が高く使えない湖があります。

 日本で聞くと、海水淡水化のWPC、硬度成分を除去するWPCはすでに実用化されているとか。そのヒ素除去施設はすぐにベートラ地区設置しますので、何とかそうした地下水や湖の水を無害化して使えるように手を貸して頂けませんか?」


「うん、このアジズ君が言うように、わが国の中央平原には水そのものは地下水として豊富にあるのですが、塩分が高く使えません。そのために人々は貧しく、特に水に困っています。そこで、厚かましいお願いですが、何とか手を貸して頂きたいのです」

 

大使もさらに言う。まあ、こうなるとは思っていたんだよね。僕はアジャーラに目配せをすると彼女が口を開いた。

「ええ、私も自分と同じ状況に置かれている人たちのことは放って置けません。私も、オサムに習って水処理のWPCのことを学んでいますから、出来るだけの手助けをします」


「おお、それは有難い。そうとなれば………」

 この日の話で、アジャーラが育った中央平原のための水供給プロジェクトが始まった。約束した医療用WPCと発電用WPCを使うために、多くのウズベキ人がWP能力の処方とWPCの研修のためにやってきて、WPC研修センターで学んで帰った。


 なお、在ウズベキの日本大使館の動きのお陰もあって、アジャーラの来日前後から多くのウスベキ人が日本で処方を受けて帰っており、彼らがすでに国でWP能力者をどんどん増やしている。


 だから、こうして研修のために日本に来る人々は少なくとも処方は受けて、知力が増強されている。この点では国営の航空会社が直行便を日本まで飛ばしている点が有利に働いている。



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