第9話 日課

「こんばんは。あれ?今日は、悠飛君、来てないんですか?」


「ああ」


「そっか…まあ、忙しいんだろうな〜。マスター、いつもの」



カウンターに腰をおろす私。




「もう、最近、旦那が出張で一人暮らし気分と独身生活満喫中」


「沙耶華ちゃんらしいね。でも、こんな時、子供いたらって思わないかい?」


「全然」


「あっさりと…」


「いや…旦那はほしいって言ってるけど、私はまだ…いいやって…倦怠期かな?正直、うるさくて…」




私は、マスターと会話しながら、お酒を飲んでいた。



そして、その日、悠飛君は現れなかった。








   次の日も……



次の日も……



     そのまた……次の日も…





気付いたら……




       日課になっていた……









それから1か月が過ぎ―――――






仕事帰り


いつものバーで


私は待つ




あなたが


来るのを……




二人肩を並べて


ここの特等席で


お酒を飲む日々……




そして……





気付いたら……





あなたの存在が……





大きくなっていた……








「マスター、帰ります」

「うん。大丈夫かい?」

「はい……マスター」



私は足を止め、振り返らず話す。



「ん?」

「……私…愛してはいけない人、愛しちゃったかな?」



「えっ?」




「結婚…してるのに…こんな想いになるなんて……」

「…沙耶華…ちゃん…」


「…もし…悠飛君が来たら…これ…渡しておいて下さい…」



そう言ってメモを渡す。




「…これは…?」


「私の…連絡先です…迷惑かもしれない…その時は捨てて構わないからって…それだけ言っておいて下さい」




私は店を後に帰るのだった。





「こんばんは」




入れ違いで入って来る彼・悠飛君の姿があった。





「あっ!悠飛君!沙耶華ちゃんに会わなかったかい?」

「えっ!?」

「今さっき帰って行った所なんだよ!」




店を出る俺。




「……………」




だけど、彼女に会える事はなかった。




「…いませんでした…」

「…そうか…」

「…ウーロンハイ…下さい」

「ああ」



「…マスター、沙耶華さん毎日きてましたか?」

「ああ、来てたよ」

「…そうか…」




カウンターに腰をおろす俺。




しばらくして――――




「ごちそうさまでした。お勘定、お願いします」

「ああ…悠飛君」

「はい?」

「これ…沙耶華ちゃんから預かったんだ」

「えっ…?」




俺はメモを預かると見てみる。



「これ…連絡先…」

「迷惑なら捨てて構わないからって…」

「…そうですか…ありがとうございます」

 


「悠飛君、勧めるわけじゃないけど…もし二人がうまくいくなら、それはそれで構わない。だけど、今後の事や将来の事、今、現在の状況を、キチンとしないといけないよ」



「…マスター…」


「沙耶華ちゃんも、悠飛君も結婚している身分なんだから」


「はい」




俺は店を後に帰る。




「…迷惑なら捨てて構わないって…そんな事するわけないですよ…沙耶華さん…」






♪♪♬〜…


私の携帯にショートメールが入ってくる


【こんばんは】




   「誰だろう?」





【ユウヒです】





   ドキン…



   「悠飛君…!?」





【マスターから連絡先預かりました】

【ありがとうございます】


【俺の連絡先、登録しておいて下さい】

【また連絡します】


【ちなみに、返事待ってます】

【きちんと届いたか心配なので】






♪♪♪〜…


【サヤカです】

【ありがとう。連絡くれるなんて思わなかった】

【迷惑じゃない?】




♪♪♬〜…


【何、言っているんですか?】

【お互い結婚してて同じ立場ですよ】

【迷惑とかよりも、逆に嬉しかったです】





    ドキン…




    「…悠飛君…」





【いつもマスターの所に来ていたって?】

【今度からは連絡しあって待ち合わせして、また飲みましょう】





♪♪♪〜…


【分かった】




私達はしばらくメールのやり取りをしていた。








     『好き』


        

         この想いが


              

              私の心にある



        


        不倫なんて


   

    いけないこと




         ・・・なのに・・・




    この想いが


        

        溢れそうなほど


     

あなたに


           

         夢中に


    

なり始めていた・・・

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