第7話 トキメキ

「こんばんはーー」


「沙耶華ちゃん、いらっしゃい。いつものでいいかい?」


「うん。お願い」


「ところで、どうだい?赤ちゃんの兆候」

「あー、ない、ない」

「そうか」


「うん。28になって相変わらず仕事尽くしで…そういえば…随分と旦那と御無沙汰かも」


「旦那さん、仕事、忙しいの?」


「ううん、そうでもないかな?普段通りだよ。あ、そう、そう。後輩が寿退社したの!おめでただって!」


「そうかー。じゃあ、沙耶華ちゃんも、そろそろかな?」


「私…?私は…微妙かなぁ〜…?」




そこへ―――――




「こんばんは〜」



振り返ると海山君の姿。




「あれ?悠飛君、酔ってるのかい?」


「まあ…仕事で、ヘマしちゃって…あっ!崎戸さんだ♪お久しぶりです♪」




トクン…


無邪気な笑顔に私の胸の奥が小さくノックした。



「そうだね」




動揺が隠せない。


しかし、平静さを保つ。




「崎戸さん、何を飲んでいるんですか?」

「えっ?お酒」

「それは分かってるし」



クスクス笑う私。



「俺も一緒の下さい!」


「21歳には、まだ、大人のお酒は、お口に合わないわよ。他のにしといた方が良いって」


「崎戸さんは確かにカッコイイ大人の女性ですよ。だから、俺もカッコイイ大人の男になりたいんです」


「海山君は、そのままで良いよ。変わらなくても充分」



「…崎戸さん…」


「背伸びして無理しても、バランスは大事なんだし」




「………………」




そして、マスターは、私と同じお酒を用意した。


一気に飲み干す海山君の姿。




「一気に…飲んだ…大丈夫なの?」



私の隣に迷う事なく腰をおろす。



「大丈夫じゃなくなったら、崎戸さん、面倒見て♪」




ドキッ



「えっ!?いやいや、マズイでしょう?奥さんに電話して迎え来てもらって」


「奥さん以外の女性(ひと)といるのに?連絡出来るわけないでしょう?」


「だったら、家で飲めば良いんじゃない?奥さんに、とことん付き合ってもら…」




私の唇に触れるか触れないかの位置に、海山君の片方の人差し指をビシッと見せる仕草をした。





ドキッ



「奥さんだからって自分の弱味、全てを見せれない事はありますよ!」


「えっ?結婚しているなら見せれるでしょう?何の為の夫婦なの?」




スッと指を離す。




「…奥さんは…俺よりも…ずっと大人ですよ」


「えっ?年上の奥さん?」


「一応、2コ上です。でも、精神的に大人ですよ…彼女は将来をしっかり見てどんどん前に進んでる」



「…………」



「俺は…今しか見ていない…目の前にある事しか…先々の事は、まだ、考えていないし…見えていない…」


「海山君…」





彼と私は何処か似ている気がした。


私達は飲む。


海山君の事を、気遣いながら――――




「海山君、飲み過ぎじゃない?程々にしないと体に…」

「沙耶華さん」




ドキッ


下の名前を呼ばれ胸が大きく跳ねる。




「な、何?」

「俺と、もう少し付き合って下さい」

「えっ!?」

「俺の行き付けの店、連れて行きます」


「いや…行き付けって…駄目だよ。それ以上飲むのも、奥さんの耳に入ったりでもしたら…」




グイッと私の手を掴むと連れ出す。



「ちょ、ちょっと!海山君っ!?ごめんっ!マスター付けといて!」


「はいはい。利子付けてね」




私は、そのまま店を後に出る。





「ねえ、もう本当に辞めておこう。第一、私達、お互い結婚しているんだし…誰かに見られたりでもしたら…」



「…沙耶華…さん」

「何?」

「夕佳との間に、まだ子供が出来なくて」

「そ、そう…」



「沙耶華さんも飲んでいるって事はまだ…」

「う、うん…まあ…」

「最近、奥さん元気ないし」


「だったら悠飛は傍にいてあげなきゃ…私と一緒にいる場合じゃないよ」




「………………」




「奥さんを支えてあげなきゃ…夫婦なんだから…!お酒なんて飲んでる暇ないよ!」


「…沙耶華さんは…支えられてますか?」


「…えっ?それは…もちろん。私は、ともかく旦那がヘコんでいるよ…」



「…沙耶華…さん」



「私はまだ、子供がほしいとは思わない。確かに時々、いいなぁ〜って思うけど、両立する自信ないし…28になった今でも、不安とか、いっぱいあるよ!」





スッと片頬に触れる海山君。


ドキン



見つめ合う私達。




ドキン…



ドキン…




更に私の胸がドキドキと加速する。





頬に触れていた手を離すと、グイッと私の手を掴み歩き出す。


私達は手を繋いだまま、海山君の行きつけのに店に行く事にした


繋がれた手から感じる体温に胸がザワつく。




ドキン…



ドキン…



店に入るも、私達は、お酒の注文をし一気に飲み干す



気付けば、お互い、イイ感じに出来あがっていた。


私達は、少しして、店を後に帰る事にした。




「悠飛君…」

「はい?」

「ううん。なんでもない」




そして、足がホテル街に行く。




「あっ!沙耶華さん!そっち…ホテル街!」

「えっ!?あっ!ごめん…」

「大丈夫ですか?」


「うん。大丈夫…お酒入っているからかな?帰りたくないって…思っちゃって……これじゃ、いつもと変わらないよね?悠飛君を、励ます為なのにね?」




「……………」



「…沙耶華…さん…」


「よし!帰ろう!」




歩き始めた私の手をグイッと引き止めた。



ドキン…



そして、背後からフワリと抱きしめられた。




ドキッ

胸が大きく跳ねる。



「ちょ、ちょっと…悠飛…君…?」



「………………」



「…えっ…?」




悠飛君は、私の耳元で囁き、帰って行った。






抱きしめられた体温の


温もりが


私の胸をザワつかせた



そして彼が耳元で囁いた


言葉(セリフ)に


疑問を抱く……





それってつまり……


彼の考えで


行動をしてるってこと……?




考え方が一緒だ……



確実じゃないかもしれない




だけど……






そして後に、私達の人生が左右され


運命が変わっていくのだった―――――












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