第3話 転勤してきた男の子

「えー、今日からしばらく、ここの職場で働く事になった海山 悠飛(うみやま ゆうひ)君だ」



「カッコイイ〜♪」


「すっごいイケてない?」




若い女子社員はザワつく。




「宜しくお願いしまーーす♪」




明るく無邪気な笑顔で挨拶する彼。


ワンコ系の可愛い系。


海山悠飛。21歳。


女子社員の人気は高かった。




「結婚してるなんて…残念…」

「本当」

「あの容姿なら奥さんも可愛いんだろうな〜」

「いいな〜」

「でも案外、美人系かもよ」

「もしくは、年上?」

「あっ!あるかも?」



「はいはい、無駄口叩く暇あったら手を動かす!」

「はーい」




その日の夜、歓迎会があり―――




「先輩、先輩。二次会行きましょう!」

「えっ?27歳の私には、オールは、お肌の大敵です」


「えーーっ!何言っているんですか?まだまだ先輩、20代なんですから」


「20代後半よ?30前なんだから。20代の若い子達で行っておいで」




そう言うと帰って行き始める私。



「あっ!せんぱーーい」

「せっかくの歓迎会なのになぁー…」


「じゃあ、ここで解散!」

「えっ!?悠飛君の歓迎会なんだよ」


「良いの、良いの。気持ちだけありがたくもらっておきます!俺、愛する奥さん待ってるから♪じゃっ!そういう事で、お疲れ様で〜す♪」


「あっ!悠飛君!」



そう言うと帰って行く彼。




✕✕✕✕✕✕✕✕




「マスター、いつもの頂戴」

「はいよ。今日は遅い帰りだね」


「うん。新入りの歓迎会。転勤してきた男の子なんだけど」


「へえー」


「それが結構イケてて。でも、新婚さんなんだって。1年よ1年。私なんか結婚して4年…もう家庭とか家族とかのいてもおかしくない年齢なのにね…全然何も変わらない生活」



私は、通い慣れたいつものバーに寄り飲んでいた。







それから一ヶ月が過ぎ――――




「沙耶華…そろそろ子供の事、考えてくれないか?」

「…また、その話…?…もういい加減にしてよっ!」

「…沙耶華…」

「…ごめん…えっと…今…色々と…」



「…沙耶華…俺達…結婚…しない方が良かったのかもな…」


「えっ?」


「結婚してから…ずっと…この4年間、お前は仕事の事ばかりで、向き合ってくれる感じじゃなかった」


「…澪二…」


「仕事するなとは言わない。だけど…家庭とか家族が増える将来の事、もっと考えてくれないか?俺は、家族がほしいんだよ!」



「………………」



「…子供を生むのは私よ!子供は確かにほしいとは思うけど、自分の時間がなくなってしまうのは嫌なの!子育てに追われてる生活なんて…澪二の気持ち…分からないわけじゃないけど…私は…不安でいっぱいなんだから!」




私は部屋を飛び出した。




初めての喧嘩


私は涙が次々と溢れてきた




私は飲みに行く。





「マスター、いつもより強いの」

「あれ?沙耶華ちゃん、どうしたの?」

「旦那と喧嘩した…」

「えっ…?」

「子供がいる、いらないで…本当…参っちゃう…」




私は一人飲んでいた。


そして、泥酔の私。




「…マスター…もう一杯…」

「もう辞めといた方が…体に悪いよ」

「…分かった…じゃあ…良い…」




私は店を出る。



「大丈夫かな〜…?」



フラフラとふらつく中、



「崎戸さん」

「…ん?」

「…海山…君…?」


「大丈夫ですか?かなり酔って…足元フラついてますけど…」


「大丈夫だよ〜まだまだいけるから〜。それじゃ」



私はフラフラと歩く。




「待っ…危ないですって」



グイッと引き止められる。



「離して!一人で平気だから!あんたは家に戻りなさいっ!上司命令ですっ!以上!」


「…崎戸さん…待って下さいっ!送ります!」


「帰んないよ」


「えっ!?」


「家には帰んないっ!」


「…崎戸さん?」


「誰が澪二の所に帰るかっつーの!ふんっ!」





ふらつく中、居酒屋に入って行く。




「………………」




そして、お酒を飲む。




「もう一杯下さいっ!」



そして、2杯、3杯と飲み、4杯、5杯目に手を付けようとした、その時だ。



スッと別の手が伸びて、視線の先には



「ああーーっ!こらぁーーっ!!海山悠飛ぃっ!!人のお酒を勝手に飲むなっ!!」


「飲み過ぎだっ!」




ドキッ



職場では、上司と部下。


先輩、後輩であり、話し方も敬語使い。


そんな年下の彼が関係なく私をタメ口で叱る。




「何があったかは知らないけど…これ以上飲むと体に悪いから」


「あんたに…年下のあんたに説教されたくないっ!奥さんの所に帰れっ!」


「崎戸さんが帰らなければ、俺も帰らないっ!」



「じゃあ、上司命令っ!帰れっ!」


「嫌ですっ!」


「じゃあ良いっ!だったら私が帰るっ!他の所で飲み直すからっ!」



そう言うと店を出て行く私。




「待って下さいっ!」



私の後を追う海山君。





「ついて来んなっ!」


「言ったでしょう?崎戸さんが帰らないなら俺も帰らないって!」




「………………」




「同じ職場の人間として、見て見ぬふりは出来ませんっ!後輩として面倒見るのも仕事です!」



「バっカじゃない!?勝手に言ってろ!言っておくけど、これは、お互いのプライベートであって、世間体では男と女!そして不倫だって事!分かる!?」


「お互いが、きっちりとしているなら問題ないでしょう?違いますか?」


「…簡単に…言わないで…今日の私は…過ち犯すかもしれないんだから…」


「その時は、その時です」



「………………」




私は足早に去る。



「あっ!崎戸さん!」



「……………」



「…結婚1年目で、ラブラブなのに…私に構うの間違ってる…」


「そうですか?」


「そうでしょう!?バレたら離婚よ。り・こ・ん!分かってんの?」


「はい。だけど、そうとも限らないでしょう?」


「えっ?」




足を止め振り返る私。




「崎戸さんが心配で俺が勝手についてきただけですから。このまま帰って崎戸さんの事が気掛かりなら尚更、奥さんが心配するだけですよ。結局、説明しなければいけないわけだし」



「………………」



「だったら目撃者のいる方が説明しやすい。例え奥さんに本当の事を話した所で信じてもらえないとしたら、それが現実なんだって受け止めるしかないんです」



「そんなの…」




グイッと私の手を掴み歩き出す。




ドキン…



「とことん付き合いますよ!崎戸さん」




私は店を転々と廻り、それに付き合う海山君の姿があった。




















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