5
点々と続く外灯に照らされた道をゆっくり歩いていく。通り過ぎる家々からは、賑やかな話し声が漏れていた。
相手に歩幅を合わせて、弟が遅れないよう注意しながら歩いていたが、ふと気づくと姿が見えない。慌てて振り返ると、少し離れたところで立ち尽くしていた。ため息をつき、近づいていく。
「どうした? どこか痛いのか?」
ブラッドは、じっと自分の足元をみつめている。こんな弟を見るのは初めてだ。マシンガントークは、すっかりなりをひそめてしまった。
俺は荷物を置くと、片膝をついて弟と目線を合わせた。
暫く経ってから、ようやくブラッドは口を開く。
「ライナスは、もう僕とは遊んでくれないの?」
蚊の鳴くような声で言う。
思いもしなかった質問に驚いたが、両肩に手を置いて訊き返す。
「何を言ってるんだ。どうしてそんなこと」
「テリーとデイヴがそう言ったんだ。ライナスにはガールフレンドができたから、僕の相手なんてしてくれないって。だから僕……」
一気に吐き出すと、しゃくりあげ始めた。大粒の涙をポロポロこぼす。
それが喧嘩の原因だったのか。そう思うと、罪悪感に胸が締めつけられた。俺はポケットからハンカチを取り出し、弟の涙を拭ってやった。
「俺はお前のお兄ちゃんなんだぞ。遊んでやらないわけないだろ」
「本当に? 今日みたいに、僕を置いていったりしない?」
涙声で尋ねてくる。俺が頷くと、弟はいきなりしがみついてきた。首に両腕を回し、痛いぐらい強く。
「ライナスは、ずっと僕の側にいてくれなくちゃ嫌だ。ずっとずっと一緒じゃなきゃ嫌だよ」
「ごめんな、ブラッド」
謝りながら、頭を撫でる。俺を放すまいとする小さな身体は、何よりも大切なものだと思えた。
「もう一人にしたりしないから。約束だ。ずっと一緒にいるよ」
この言葉に安心したのか、ブラッドは身を引き、俺の頬にキスをした。
「ライナス、大好き!」
と、満面の笑みで叫ぶ。
俺は気恥ずかしさに頬を擦りながら立ち上がった。弟の手を取り、並んで歩き出す。
当分、ガールフレンドはお預けかな。ほんの少し、シンシアに未練を残しつつも胸の内で呟く。と同時に、呆れ顔のアダムが浮かんだ。構うものか。誰に何を言われようと、呆れられようと気にすることはない。
「帰ったら、お菓子食べようね」
ご機嫌な口調で、ブラッドが言う。さっきまで泣きべそをかいていたとは思えないほど、明るい表情だ。
弟の手を固く握りしめる。もしかしたら、この手を離せないのは俺の方かもしれない。ふと、そう思う。小さくて柔らかな温もりは、心の奥深くまで染みてくる。ずっと、この手を握りしめていよう。いつか、弟が俺を必要としない日が来るまで、それまでは離さないでいよう。
俺の弟。五つ下の、どうしようもない甘えん坊の弟。ブラッド。俺はお前を、誰よりも愛しているよ。
マイ・リトル・ブラザー bloody_m @bloody_m
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