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バスを降り、待ち合わせの場所へと急ぐ。町はオレンジと黒で染まり、ショーウィンドーからはジャック・オ・ランタンがにやけた顔で覗いている。様々な仮装をした人の波を掻き分け、ようやく映画館の前に辿り着いた時には、既にみんな揃っていた。
「十五分の遅刻だぞ、ライナス」
腕時計を叩いて、アダムが言った。ロックバンドのTシャツに黒のジーンズ。普段の彼と変わりない恰好だ。
「ごめん、ごめん。弟にみつかっちゃって」
と平謝りする。
アダムの隣にはガールフレンドのパティが、そしてその横にはシンシアがいた。薄いピンクのセーターに、ワインレッドのミニスカート。ロングブーツに包まれた脚は、なんと素脚だ。綺麗なラインを惜しげもなくさらしている。パティの方も似たような服装だが、こっちはしっかりストッキングを穿いているというのに。
「また例のやつが始まったか」
アダムの声で我に返り、シンシアから視線を移す。
「えっ、なんだって?」
「ブラッドが駄々こねたんだろ。“僕も一緒に行くーっ!”ってさ」
弟の真似をしながら彼が言う。こいつとは腐れ縁で、ブラッドのこともよく知っているだけに何も言い返せない。
「甘やかすからいけないんだよ。ブラッドだって、もう十一になるんだろ。ここらへんで兄貴べったりは卒業させないと。このままじゃ、お前、一生弟につきまとわれるぞ」
もっともだと俺も思う。昔から、弟はどこへ行くにもついてきた。そのせいで友達をうんざりさせたことも少なくはない。だけど俺には、あいつを放っておくことはできなかった。無条件で慕ってくる弟を邪険に扱うなんて、到底、無理だ。
「そのくらいでいいでしょ、アダム」シンシアが割って入る。「ライナスの弟って、かわいいもの。構いたくなるのも当然よ」
そう言うと、彼女は俺に向かってニッコリ微笑んだ。小首を傾げるしぐさが、小鳥のように愛らしい。
彼女とは、ハイスクールに進んでから出会った。同じクラスを取っている、先がカールしたブロンドが魅力的な女の子。他にも彼女を狙っている男はいたが、彼女は俺を選んでくれた。またとない幸運だ。
「本当に遅れてごめん、シンシア」
心の底から謝罪する。
「いいわ。この後で埋め合わせしてくれれば」
彼女は答え、意味深なまなざしを向けた。
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