第4話 印 象 ~ 記憶 ~

「沙夜華ーー、沙夜華ーー」

「また突然帰国かよっ!」



お母様の行動に素の自分で突っ込みを入れる。



私は屋根上にいた為、渋々降りて行く。




次の瞬間─────



ズルッ


足場を踏み外す。




「きゃあっ!」



驚くも、ホッとしたのも束の間



ガクッ


立て掛けてある脚立と固定してある紐が劣化の進みでか、プツンと切れたのか


私は庭に放り投げ出されそうになった。



「きゃあっ!」



私は反射的に手がベランダを掴む。



「…危なかった…」



しかし体はベランダの手摺の外側。





そこへ────




「お嬢様、失礼します」



「………………」



「あれ?お嬢様?」



部屋にいるはずの彼女の姿がない事に気付く。



「…屋根か…」




俺は迷う事なくベランダに向かう。



「お嬢様?」



ベランダの手摺の外側に彼女の姿。



「お嬢様」

「あっ!眞那斗」

「脱獄ですか?」

「脱獄って…あのねー!違うから!」

「そうですか?奥様が帰られたから会いたくなくて逃げ出してるのかと」


「どうやって?下は庭!逃げ出すには飛び降りるしかないです!そんな無茶苦茶な事はしません!」


「屋根に登る方が言う台詞ですか?」

「あのねー!」




手摺に足を掛けベランダの中に入って来はじめる彼女。




次の瞬間、私に再び悲劇が起こる。



「きゃあっ!」



もう片方の足を踏み外したのだ。


手摺に両手で掴むも力が十分じゃない。




ズルッ


手摺の両手が外れ始める。




「きゃあっ!」



グイッ


私の両手を掴まれた。



ドキッ



「眞那斗…」


「足を掛けて下さい。大丈夫です。私が必ず助けますから。落ち着いて」



ドキン



私は眞那斗に誘導されながら





ドサッ



私達は倒れ込むようになり私は何とか助かる事が出来た。




「ありがとう」

「いいえ。あなたの命を守るのも私の仕事ですから」

「そ、そうだね」


「ご存知の通り奥様がニューヨークから戻って来られましたよ」

「あ…うん…すぐ行く…」




ドキーーッ



至近距離で視線がぶつかる。



「……………」



「お嬢様?」



ドキッ



「あっ!ごめん…なさい!」




ドキドキ胸が加速する。



ズキッ


身体を離し始める。



「痛…」


災難続きで、いつの間にか怪我しているようだ。



「大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫です。多分、怪我をしたみたい。後で手当てします」




私は身体を離す。




「本当あの人は突然の帰国ばっかり。緊急だったり緊急じゃなかったり会って話をするまでは何か分からないよ」




私は足早にお母様の所に向かった。




「お母様!また突然帰国ですか?今日は何ですか?」


「遅かったですね。本当、相変わらずお帰りの一言くらいないの?」


「ありません!突然の帰国に余裕ありませんよ!連絡1本下されば待ってあげても良いですけど! “ お帰りなさい ”の一言なら言えますよ!第一私も色々と忙しいんです!それで?」


「全く…困った娘ね…少しは変わるかしら?」

「…えっ?…何の話?」


「あなたも16歳になった事だし、あなたに会わせなければいけない方がいます。近いうちに、お食事会をします。宜しいですね」


「…そう…ですか…分かりました…って…お食事会っ!?」


「そうですよ。準備は、こちらで色々と用意しておきますから、あなたは当日、時間通りに来れば良い事。何も考えなくても良いわ。但し、礼儀作法等は、きちんとしてもらうよう、しばらくみっちりと教育指導の担当の方にお願いしてます。良いですね」




それから学校が終わり、礼儀作法など改めて練習の日々。


クタクタだ。




そして、お食事会当日────




私に紹介されたのは、御曹司の息子・家元 彰(いえもとあきら)さん。20歳。


誠実そうな雰囲気で申し分ないんだけど……



食事会以降は仲を育む為、会う回数も増えていく中、愛想笑いをし良いお嬢様ぶっていた。



そんなある日のデートの日。




「沙夜華さん、無理なさらないで下さい」

「えっ?…彰さん」


「今迄、色々な女性を見て来ましたが、あなたみたいに無理してる方は初めてです」



私の髪に触れる。


ドキン




「だけど逆に愛おしくもあります。そういう女性程、凄く魅力的で惹かれます」




《ヤバイ…ドキドキしてるんだけど…》



「あなたの本当の姿を知りたいです」




ドキッ



「お付き合いして頂けませんか?」




ドキン



「ゆっくりで構いません」



《確かに申し分ないけど…》

《ゆっくりとはいえイザ付き合うとなると…》



「ご、ごめんなさいっ!」

「えっ?」


「いや…えっと…その…私…まだ16だし人を好きになるとかって良く分からなくて…確かに両家の公認だから全然良いんですけど…付き合うとかって良く分からなくて…」




片頬に優しく触れ、反対側の頬にキスされた。


ドキン



「分かりました。沙夜華さんのペースで構いません。付き合うとかよりも普通に出かけたりして、お互いの事を知っていきましょう。私の方から両家には上手く伝えておきます」


「は、はい…すみません…ありがとうございます」








ある日の事────




♫♫♪♩♪……




「…ピアノ…」



私は久し振りに聴くピアノの音色に足を止めた。



「何処だろう…?」




ピアノの音色に導かれるように私は足を運ぶ。




「…えっ…!?」




私はまさかの場所に驚いた。






だってそこは




私がいつも





出入りしている





見覚えのある





場所だったのだから・・・








「…私の屋敷…?」




私は屋敷入って行きピアノの音色が聴こえる部屋の前で足を止めた。





ガチャ


静かにドアを開ける。




ドキン


ピアノの前には意外な人物がいた。




「えっ…?…嘘…」

「…お嬢様…あっ!すみません…勝手に。お帰りなさいませ」

「…今の曲…」

「…えっ…?」

「あなたが…弾いて…いたの…?」


「あ、はい…物心ついた時は両親から買って貰ったピアノで、いつも弾いてました。まあ、この曲に限らず曲目は色々と。ここしばらく今はピアノから離れ弾いていなかったのですが…あの…何処かおかしかったですか?」


「ううん…おかしいとかよりも驚いたのと…その曲を聴いた頃、母親が倒れた時で…偶々、耳にした時の印象が強くて……」


「そうでしたか…。……じゃあ私がお嬢様であるあなたを屋根で見た時の印象的だったようにですね」


「…そうって…いや…それとこれとは…」




微笑む眞那斗。


ドキン



ピアノの蓋を閉じ始める。



「弾かないの?」

「えっ…?」

「続き弾いて…」

「お嬢様…」

「私からの命令。だったら良いでしょう?」



彼はピアノを弾き始める。




「…ありがとう…」

「いいえ」

「あの…良かったらピアノ使ってもらって良いから」


「えっ?いいえ。それは致しません。奥様が帰って来られたら大変ですから」


「じゃあ時間決めましょう。私が一緒にあなたの傍にいれば突然帰国した時にでも対応出来るから」


「…お嬢様…」


「あなたのピアノを聴かせて…」


「…分かりました。お嬢様が、そこまでおっしゃるのなら」


「ありがとう…」




それから時々、2人の時間が増えていく。

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