第66話 成長?

この世界に来て8か月

早いような遅いようなよくわからない感じ…

朝起きてご飯を食べて、狩りに行くか採取するか、それとも刺繍をするか

その日の気分で選んでは昼頃まで没頭する

そして昼食をはさんで散歩したり町に行ったり、誰かと会ってたり


そんなとてものんびりした日常が相変わらず続いていた

たまに変化があるとすれば泊りがけで漁に行ったりするくらい

ピクニックもどきやBBQも月に数回するのは恒例行事となりつつある

ごくたまにグズリスからホークたちの知り合いが尋ねて来ることがあるけど、それも月に1度あるかないかというレベルだしね

その時は念のためレオールも私も森には入らないようにしてる


あ、後は時々神様たちが姿を現すくらいかな

もっとも神が姿を現すこと自体が普通の人の日常からはかけ離れているんだろうけど…

姿を見せてないだけで結構な頻度で誰かが側にいるみたいだけど、未だに私にはそれを感じることは出来ないんだよね

神様たち曰く、見守ってるだけだから気付かれた方が困るらしいのでそこは気にしないことにした


そんな中、大きく変わったことが一つ…

「あ、姉ちゃんおはよ」

「おはようレオール。ご飯の準備してくれたの?」

「ああ。今日はパリスとサンゴ採りに行くんだ」

レオールはそう言いながら食事を進める

精神年齢が8歳になったレオール

いつからか“お姉ちゃん”ではなく“姉ちゃん”と呼ぶようになっていた

“ボク”が“俺”に変わってから口調も少しずつ変わっていた

だから覚悟はしてたけど、私はそれがとっても寂しかったりする

以前と変わらず飛びついて来るし寝る時もくっついて来るけど、呼び方一つでも成長を感じてしまうのだから不思議

レオールが成長するのは嬉しい

これからどんな風に成長していくのか楽しみでもある

でも私の元から離れて行ってしまうのだと思うと…

何か子離れできない親みたいになってるけど大丈夫かしら?私…


「どうかした?」

「あ、ううん、何でもないよ。レオールも出来ることが増えたなーって思ってただけ」

「へへ…」

レオールは少し照れたようにはに笑う

「出来ること増やすの楽しい。もっと増やして姉ちゃん楽させたげるから楽しみにしてて」

「レオール…」

そんな風に考えていたのかと驚いた

「今はまだ姉ちゃんに頼ることの方が多いけどさ、そのうち姉ちゃんに頼られるようになるのが目標なんだ」

「え…?」

その言いように少しドキッとした

5歳で母を亡くした後も家に寄りつかなかった父のおかげで“頼る”なんて選択肢は私には存在しなかった

“どうせ俺には頼りがいがないから”

恋人に何度かそう言われたこともあったっけ…

でもこの世界に来て私は随分周りに助けられてると思う

その状況を受け容れられてるのは元の人格に神々の何かが加わってるからなのかもしれない


「前にバッカスが言ってたんだ。姉ちゃんには頼る人がいないって。だから俺がその姉ちゃんの頼れる人になる」

言い切ったその目に揺らぎはない

あるのは強い決意だ


レオールを保護したのはこの世界に来てひと月くらいの頃だった

それからまだ7か月しかたっていないのに随分成長してしまったらしい

人のそれとは違い驚くほど速い成長速度に驚きながらも、どこか頼もしい言葉にわずかながらも期待を寄せてしまう自分がいたことに、この時の私は気付いていなかった

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