第65話 恋心
いつものように採取していた女性陣が家に集まっていた
話す内容はいつも大して変わらない
それでも不満なんて無くて、ただみんなでワイワイ出来るそんな時間を皆楽しんでいるわけだけど…
「シビル何かあった?」
必死で普段通りの笑みを作っているシビルが痛々しくてつい聞いてしまった
「!」
シビルは一瞬引きつった表情をした後うつむいた
数日前に会った時は何ともなかったのに一体何があったのかとカイナを見ると苦笑を浮かべる
「…クマリが町で一目ぼれしたって」
「え…?」
ごめんそれは想定外だった
町でってことは…人族が相手なのかしら?
っていうかこれは突っ込んで聞いていいのかしら?
「あの子たち時々ギルドに素材を売りに行ってるでしょう?そこで会ったみたいなのよ」
「えっと…冒険者ってこと?」
「そう。しかも同じ狐族の亜人」
「亜人…同族…」
呟く言葉にシビルが泣き出した
「ずっと一緒にいたのに…」
一緒にいるから恋人になれるとは限らない
それはシビルもわかってるんだろうけど…
「一昨日帰ってくるなり報告してきたのよ。ギルドで会った狐族の冒険者が自分の番だって。その場で付き合うことになったらしいの」
「え…」
展開早くない?
「彼女、キアンって言うんだけど集落の若いのが集まって女5人のパーティーを組んでるみたいでね、今は町の宿を拠点にしてるみたい」
塀の中…と思ったけど宿に泊まる分には亜人でも特に支障はない
逆に言えば有事の際宿の宿泊者は保護対象外って意味でもあるんだけどね
「キアンの方も番だって認識したみたい」
ダリがそう言ってため息を零したのは昔からシビルの気持ちを知っていたからだろう
「残酷なようだけど亜人は番が全てみたいなところがあるからね…はぐれでない限りは比較的番が見つかるから余計かもしれないけど」
「え?そうなの?」
「そうよ。大抵同種の中で見つかってるかしら。他には身近にいた人とか?」
「そうね。他種族でも幼馴染とかは多いかしら。私たちはたまたまこっちの森に棲んでるから出会わなかっただけね」
その幼馴染という言葉に一度落ち着きかけていたシビルが再び泣き出してしまった
そうよね
シビルはずっと幼馴染という立場で思い続けてたんだものね…
「ねぇ、番ってお互いがそうなの?片方だけとかそういうのは…」
「ん~聞かないわね」
「そうね。認識する時期にずれがあることはあっても違う相手って言うのは聞かないかな」
「そう…」
あれ?
「ねぇ、それってシビルには別の番がいるってことなんじゃ…?」
私がそうつぶやいたとたん皆が固まった
そういう意味ではないんだろうか?
「言われてみればそうよね?」
「ええ。これまでシビルの憧れのような気持ちだけしか見てなかったから考えもしなかったわ」
「憧れ…」
「番と認識してたらクマリとそのままの状態を維持するだけで満足なんて出来ないはずだものね…」
「そうなの?」
「そうよ。まだ相手が認識できてない場合に相手に合わせて番だということを隠すことはあっても駄々洩れよね。誰かさんみたいに」
「誰かさん?」
私が聞き返すとダリとカイナが呆れたようにため息を吐いた
「…その話はま今度ね」
「今はシビルの話の方が大事」
「あ、うん。わかった」
思いっきり誤魔化された感があるし気にはなるけど仕方ない
「そういう意味で言えばシビルがクマリを番として認識していたって感じは全くないのよね」
「でも私はクマリが…」
シビルは反論するように言う
「そうねぇ…例えばクマリが狩りで怪我してこの先狩が出来なくなったとしたらどうする?」
「え?それは…こまるわ」
あ、これダメなやつだ
私でもわかる
カイナたちの反応を見る限り2人も予想外の答えだったみたいだけど…
「…たとえ寝たきりになろうと一緒に添い遂げたいと思える相手、それが番なんだと思うわ」
「そうね。かっこいいとか、お金があるとか、地位があるとか…そういう付属されたものを全て取り払ったとしても好きだと思える相手にシビルも出会えるといいわね」
「うん…」
シビルはよくわからないとでも言いたげな表情で頷いた
多分、出会ってしまえば嫌でもわかるんだろうね
何にしてもシビルの可愛いらしい恋が終わったみたいだ
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