第64話 闇の森の異変(side:フルジリア)

魔法の習得の一番遅かったアキナがようやく北東の森に出て1週間ちょっと

王宮内が騒がしくなったのはそんな時期だった


「騎士は総員闇の森へ!近隣の魔獣を殲滅せよ」

王からの指示がとび騎士団長から騎士達に伝達される

異変が起きたのは早朝だった

“闇の森から魔獣が出てきた”

“魔獣が町を襲っている”

そんな報告がギルドを通して王であるジャッキーに届いた

ギルドは冒険者に緊急クエストを既に出している

それは主に森から出てきた魔獣に対処するもので、こういった事態に騎士達は森の中の近場にいる魔獣を討伐することになっている


「勇者はどこだ?」

「北東の森に討伐に出ております」

「状況は?」

「一番筋のいいエミでも中級ランクの魔物がせいぜいといったところか…適性の低いアキナは論外ですな」

「まだ足手まといか…役に立たん屑どもめ…!」

ジャッキーは騎士達の前で吐き捨てる

「ナオトが姿をくらまして1月半ほどですな。最初の1週ほどはウサギ族の捜索も有って闇の森のフルジリア付近は討伐がなされていたがその後は手付かず…」

「この数十年闇の森から魔獣が溢れてきたことなどなかったというのに…本当に忌々しい…」

「せめてナオトがいればよかったのですが」

ガーナはそう言って棚の上に置かれた魔道具を見た

「最初の数日は討伐記録も更新され位置情報も更新されていたはずでは?」

「途中から動かん。魔道具の故障かとも思ったが残ってる勇者の情報は取得できる。つまり…」

「ナオトが死んだと?」

「ギルドカードの追跡機能のことなど王族しか知らぬこと。下手な小細工をする必要も無かろう?」

ジャッキーは掃き捨てる様に言う

まさかあの日ナオトがジャッキー達の話を聞いていたなど夢にも思っていない

「おおよその位置は海を指していた。魔獣と戦闘中に落ちたか…」

「あれほど召喚するのに苦労したというのに肝心なときに使えないとは…」

ジャッキーを中心にガーナとセリドの言葉も相当なものである


「で、いかがなさいますか?」

「…子のいる亜人の親子を全て連れて来い。大型の檻も用意しろ」

その言葉に側にいた側近が慌ただしく動き出す

その慌ただしさが落ち着くまで約10分

ジャッキーは苛立ちを隠すことなく待っていた


「揃いました」

側近が広間に誘導するとそこには50人を超える亜人が揃っていた

みな首輪と足枷を付けられている

「ご苦労。子を全て檻の中へ」

「はっ!」

何が起こってるかわからないまま親と引き離され檻に放り込まれる子らは不安のままに泣き叫ぶ

「親だけで何人だ?」

「35人です」

「これから貴様らには闇の森に討伐に出てもらう」

その言葉に亜人たちはざわついた

「3日後の日が沈むまでに一人頭20体の魔獣を狩ってこい」

「そんな…無茶です!」

「闇の森の魔獣など歯向かえば即死…」

亜人が強いと言っても種族によりピンキリである

「嫌ならかまわん。貴様の子が檻から出されて闇の森に捨てられるだけだ。もちろん枷はそのままでな」

ジャッキーの非情な言葉に悲鳴が上がった

それでも亜人は騎士達に追い立てられて去っていく

「これで当分はしのげるだろう」

ジャッキーのその言葉にガーナとセリドの顔も醜い笑みを携えていた

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