第63話 風邪

この世界に来てもうすぐ3か月かーなんて呑気に思いながらいつものように朝から刺繍

アネラとレオールは当然の様に狩に行ったから家の中は静まり返っていた

「なんだろ…いつもより静かな感じ」

気のせいかな?と思いながらも何か変

それに少し暑い気がする

そう思いながらも刺繍を進めていたんだけど…

「あれ?」

視界がぼやけてきた

そこで私の記憶は途切れていた


***side レオール***

「『ただいまー』」

いつものようにアネラと狩りに行って帰ってきた

でもいつもなら聞こえて来る“おかえり”が聞こえない

「お姉ちゃんいないのかな?」

『ん~気配は有るから家にはいると思うんだけど』

「探してみるよ」

アネラの言葉に少し心配になって家中を探した


「お姉ちゃん?」

和室のふすまを開くと横たわってるお姉ちゃんを見つけた

側によっても反応がない

「お姉ちゃん!」

俺は怖くなってお姉ちゃんの体をゆする

「…熱い?」

いつも抱きしめてくれるその体は驚くほど熱かった

「…ゃだ…お姉ちゃん!」

『レオール!ミリアはいたの?』

「アネラ…お姉ちゃん倒れてる…体が凄く熱い…」

どうしていいかわからない

『病気かしら…?』

「俺どうしたらいい?どうしたらお姉ちゃん助けられる?」

これまで面倒を見てもらったことはあっても誰かの面倒を見た事なんてない

ずっと前に苦しくなった時は母さんがずっと側にいてくれた

クスリとか食べる物とか飲む物とか…貰った記憶はあるのにそれがどんなものだったかまでは思い出せない

『あ、カンバルに助けを求めてみるのは?レオールが助けて欲しい時は姿を見せれるって言ってたじゃない』

「あ…」

アネラに言われて以前そんな話をしてたことを思い出す

自分が助けて欲しい時はって言ってた

「…けて…助けて!カンバル!」

縋る様な気持ちでそう叫んだ時包み込まれるような温かさを感じた

「どうした?レオールが呼ぶなど珍しいじゃないか?」

「カンバル…!」

カンバルの姿を見て一気に不安が溢れ出す

「カンバルどうしよう…お姉ちゃんが…!」

「ミリアがどうかしたのか?」

「お姉ちゃんが倒れて…俺どうしたらいいかわからなくて」

「ミリアはどこにいる?」

「こっち…」

俺はカンバルを和室に案内した


カンバルはお姉ちゃんの側にしゃがむと何かを確認してるみたいだった

「風邪だろうな」

「…風邪?」

「ミリアがこの世界に来て3か月くらいか…張りつめてた糸が緩んだんだろう。耐性があっても万全ではないからな」

「…このまま死んだリしない?」

「ん?ああ、それは大丈夫だ。栄養あるモノ食べて、暖かくしてゆっくり寝ればすぐに良くなる」

「栄養あるもの…」

「アネラの家の裏にある果物をすりつぶしたので大丈夫だ。あれはポーラの力が宿ってるからその辺の薬より効果があるはずだ。でもその前にミリアをベッドに…」

「わかった!」

俺はお姉ちゃんを抱き上げて2階に運んだ

「ほう…いつの間にかそこまで力も付いてたか」

「え?」

「思ったより軽々と運んだから驚いただけだ」

そう言ったカンバルはどこか嬉しそうだった

身体の大きさはまだ抜けないけど、ザック達と狩りをするようになってから力は強くなった

お姉ちゃんを抜いたのは1か月くらい前かな?

「果物の用意してくる。カンバルお姉ちゃんについててくれる?」

「ああ、引き受けよう」

俺はカンバルがベッドのそばにあった椅子に座るのを見て庭に向かった


『レオールミリアは?』

「カンバルが風邪だって…アネラ、すりおろせる果物わかる?」

『ええもちろん。栄養があってすりおろせるものだったらこれが一番よ』

そういってアネラが渡してくれたのはリンゴだった

「ありがと!」

『今日はミリアについててあげてね。どうしようもない時は泉に連れて行きましょう』

「分かった!」

アネラに感謝しながら家の中に戻る

最初から泉に連れて行かないのは泉は利用するたびに泉への耐性が付くからだって言ってたっけ

すぐにリンゴをすりおろしてお姉ちゃんの部屋に戻った


「カンバル、リンゴすりおろしてきた」

「…レオール…?」

「お姉ちゃん!」

聞こえてきた大好きな声に、思わず落としそうになったお皿を何とか持ち直してテーブルに置いた

「よかっ…」

これまで抑え込んでた不安が溢れ出す

「カンバル?私…?」

「風邪で倒れてた」

「え…」

少し驚いた顔をした

「レオールに助けを求められてな」

「そう…ありがとう。レオールもありがとね」

「ん」

抱き付いた俺を抱きしめる力がいつもより弱くて不安になる

それでも目を覚ましてくれたのが嬉しくて溢れて来る涙を何とかこらえた

「りんご…すりおろしてきた。カンバルが栄養取って温かくして寝るのがいいって」

「ありがとうレオール」

俺が渡したリンゴをお姉ちゃんはゆっくり口に運ぶ

「食えるならもう大丈夫だろう。俺は戻るぞ」

「ありがとカンバル」

「ああ。またいつでも呼んでくれ」

俺の頭をなでてからカンバルは帰って行った


「心配かけちゃってごめんね」

そうかけられた言葉に首を横に振る

「元気になってくれたらそれでいい。だからおいていかないで」

「レオール…」

「一人はもう嫌だ…お姉ちゃんがいなくなるのは絶対に…」

「ん…置いてかないよ。大切な家族だもの」

包み込むような優しい温もりに不安が和らいでいく

俺がお姉ちゃんにしてあげられることはあまりない

でも今日みたいな思いはもうしたくないから、色々出来るようになりたいってそう思ったんだ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る