第62話 試しに…

「パーシェ」

「何だ?」

「この辺で魔獣が出る場所ってあったっけ?」

草原まで魔獣が降りてきたのは見たことがない

「今のところ闇の森だけだと思うぞ。それ以外に被害の出た様子はないからな。それがどうかしたのか?」

「ん…魔獣の強さを知りたいなと思って」

今のところ情報が皆無なだけに何かあった時にかなり困る


「そうだな…なら行ってみるか?」

「闇の森に?」

「ああ。ポルタナ側から入れば問題ないはずだ」

「行くなら連れてくぞ」

パーシェとは違う声に振り向くとバッカスが立っていた

「バッカス…驚かさないでよ」

「あはは、悪い悪い」

全然悪いと思ってないわ…まぁいいけど


「ミリアなら中心部の最強種相手でも全く問題ないが知っとくのは有だと思うしな」

「俺も行く」

「レオール?」

「闇の森ってお姉ちゃんの敵がいる国の近くでしょ?だから俺も行く」

真っすぐこっちを見て発せられたその言葉に一瞬ドキッとした

「でも危険なんじゃ…?」

「いや、レオールでも問題ないぞ。戦力的にもナオトより上だし、そもそも亜人の肉体は戦闘にも向いてる」

「レオールがミリアの戦力を抜くのも時間の問題だろう。種別柄適性はレオールの方が高いからな」

パーシェとバッカスの言葉にちょっと悲しくなった

分かってはいてもちょっと虚しいからね?

そう思う私を2人は苦笑しながら見ていた


「わかった。じゃぁレオールも一緒に行ってみようか」

「うん!」

嬉しそうに頷くレオールから恐怖心などは一切感じない

それなら大丈夫かと私も腹をくくることにした


「バッカスお願いできる?」

「まかせとけ。パーシェは留守番か?」

「ああ。ここでアネラと待ってるとしよう」

アネラ自身主神であるパーシェの側は居心地がいいらしい

自ら果物を取って来てパーシェの前に並べていた


「では行くぞ」

その言葉と共に私たちの周りの景色が一瞬にして変わった

地図で自分の位置を確認すると結構な中心部だった

「まさか本当に中心部に飛ぶとは思わなかったわ」

「どうせ倒せるんだから問題ないさ」

「!」

レオールが一点に意識を集中させた

私もそちらに意識を向けると魔力の気配がする

「魔獣?」

「この森の中では3番目に強い種族だな」

姿を現したのは牛のような姿の魔獣

でも角が在り得ないくらい凶悪な形状をしていた

左右それぞれが5股のフォークのような長く鋭い形

あの角に差されたら穴だらけね…

辺りを見れば木の幹に貫通した穴がいくつも見て取れる

その威力を察するのは容易い

「もう一頭」

レオールの言葉に頷く

「レオールは右お願い」

「分かった」

「バッカスは何かあった時のフォローをよろしく!」

「引き受けよう」

そう言いながらも木にもたれたままの姿に私たちの無事を確信しているのが分かる


『グオ…』

「え?早っ」

想像以上の速さで突っ込んで来た

咄嗟に避けたもののその先の木は奥まで5本ほどなぎ倒されている

まじ?

何この威力

様子見なんて呑気なこと言ってたらやられる?

少しの焦りと共に対峙する

角だけは確実によけながら首を切り落とすのが一番かな?

そう判断すれば後は実践するのみだ

向かってきた魔獣を避けると同時に飛びあがると上空からライトソードを放つ

申し訳ないけどイメージしたのはギロチンだった

「お姉ちゃん今の凄い!」

「レオールも終わってたのね」

「わずかな差でレオールの方が早かったな。2人共首を切り落とすあたり似た者同士か。しかも火を使わない」

「え?だって火を使ったら肉の状態悪くなる」

レオールの判断基準は食べることにあるらしい


「3番目に強い種族にもかかわらず2人共1撃とはな」

バッカスは解体する私達を見ながらゲラゲラ笑う

「お姉ちゃんさっきのは何をイメージしたの?」

期待を込めた目で訪ねるレオールにさてどうしたものかと考える

まさかのギロチンを説明するのはどうもはばかられてしまう

「そうね…あれは大きな刃物が上から落ちて来るのをイメージした感じかな」

嘘は言ってない

人を殺すための道具だって伝えてないだけだ

「そうなんだ…俺も今度やってみる」

「うん。頑張って」

少し複雑な気持ちを持ちつつも応援する自分に笑ってしまう


「さっきより強いの来た」

「本当だ。バッカスこれは?」

「熊の狂暴版。この森の最強種」

バッカスの答えと同時にその姿を目で捉えることが出来た

熊なんて可愛い見た目じゃない

凶悪な顔つきにその手の先からは30cm程の鋭いカギ爪

それが3方向からこっちに向かってくる

あんなの振り回したらヤバいって…

「レオール気を付けて」

「わかった!」

…と、やる気を出したもののあっけない程簡単に仕留めることが出来た

「弱い!」

ちょっと不満君のレオールにバッカスが苦笑する

「だから言ったろ?お前らなら問題ないって」

「聞いたよ?でも弱すぎだよ!」

レオールのこの言葉をフルジリアの人間が聞いたらどう思うだろうか…

レオールの両親の命を奪った元凶であり私の平穏な生活を奪うかもしれないフルジリア

身を守るために召喚した勇者よりも召喚に失敗した私や道具にしようとして取り逃がしたレオールの方が強いなんてこれ以上にない皮肉だわ


「とりあえず魔獣の強さは分かったしもういいかな」

あの3人はまだこの森に入る事すら出来ない

なら当分の間は私達には何の問題もないだろう

「この素材売っても大丈夫?」

「あーそれはやめといた方がいいな。余計な噂が立つし何より目立つ」

「…じゃぁ売らない」

レオールはつまらなさそうに言う

自分が目立てばまた追われる可能性もあると既に分かっているのだ

まぁ今のレオールがそう簡単に負けるとは思わないけど

「そのうち売る機会もあるかもしれないから預かっとくわ」

そのまま置いとくとダメになる素材も多い

その点インベントリなら問題はないからね


「よし、満足したなら帰るか。パーシェが首を長くして待ってるだろうしな」

そういえば留守番してるって言ってたっけ

思い出してクスリと笑ってしまう

「レオールももういい?」

「いい」

頷いたのを確認してすぐ周りの景色は見慣れたものに戻った


「戻ったか。どうだった?」

「弱かった!」

即答したレオールにパーシェは笑い出す

「少しは安心できたか?」

「そうね。今のところ気にすることは無いってことは分かったかな」

「そうだろう?唯一気になるとすればあの3人が何かのきっかけで化ける可能性があるという点だ」

「あの3人が化けるか…」

化けたとしてフルジリアの為に動くかどうかもまだわからないけど…

「きっかけによっては大きく動く可能性もあるよね…それがこっちにとっていい面でならいいんだけど」

この世界を恨んだりしたら面倒なことになる

「フラグを立てるようなことは言わない方がいいと思うが?」

「!」

バッカスの言葉に息を詰まらせる

「そ、そうよね。もう何も考えないことにするわ」

そんなフラグ絶対いらないから

そう強く思ったもののそれが既に遅いということを私は後に知ることになる

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る