第54話 ステータスのこと
「そうだ、聞きたいことがあったのよ」
何とか空気を変えたくてそう切り出した
「何だ?」
「この世界の人って自分のステータスが見れること知らないの?」
「今は秘匿されてたかしら?」
ジュノーが記憶を探る仕草をしながら言った
「確か500年程前だったか?」
「そうだな。フルジリアがこの世界で幅を利かせていた時期だ」
こんなところにもフルジリアの名前が出てくるの?
「スキルを独占しようとした結果だな。ステータスを見ることを禁止したはずだ。それぞれの国の教会にフルジリアの者を送り込んでステータスを見るのは神官のみと通達された。自分で見た者、見れることを教えた者と教えられた者が教会に捕らえられるようになった」
「何それ…」
「時間と共に見れることを知る者がいなくなったはずだな。今では当のフルジリアでも知られてはいない」
「ステータスを見れるのは鑑定のユニークスキルを持つ者のみと思われてるはずよね?」
「あとは神官だな」
次々と告げられることに呆れるしかない
「神官に見てもらうには金がかかる。結果、祝福も加護も授かったことは知っていてもその詳細は知らぬままだ」
「それでも私達に好かれているって認識はあるみたいね」
「だから喜ばれてはいるってこと?」
「そういうことだ」
「…ステータス確認できることを広めるのはまずい?」
「いや、神殿でも既に過去の情報は引き継がれていないからな。ただ神官が確認できるというだけの認識だ。あとは召喚された勇者は特殊な力があるから見れると伝えられているのとギルドカードの詳細情報を表示する魔道具で確認できるってことくらいか」
「貴族たちはそれを利用して自分の立場をより有利にしようとしてるみたいだけどね」
どこの世界もお偉いさんの考えることは変わらないらしい
「私達としては、祝福や加護の力を使って暮らしを豊かにしてくれた方が嬉しいの」
「その方が世界が発展するからな」
「好きで楽しんでやってる子には祝福や加護をあげたくなるしね」
フローナがにっこり微笑んで言う
シビルの事を指しているのは明らかだ
「魔法の適性がある子に祝福をあげても今は意味がないみたいだしね…」
特性に影響があるから意味がないわけではないと思うけど…
かといってそう簡単に世界中に広めるなんて無理よね
「無理に広める必要はないぞ」
「え?」
「ミリアやレオールが伝えてもいいと思う相手に伝えるだけで十分だ」
「俺も?」
「ああそうだ。豊かになってもらいたい相手に教えてやるといい。その後は勝手に少しずつだが広がっていくだろう」
「魔法は属性があるから簡単には広がらんだろうが、特性を見ることが出来ればそこに興味を持つ者も現れるだろう。そうなれば自然と世界は発展に向かう」
「フルジリアだけが問題だがな」
沢山の期待の中に浮かぶ不安
「フルジリアってそんなに力があるの?」
「そうだな。あそこの王族が代々世界征服を狙ってるのは確かだ。その為に教会を味方につけて鑑定や魔法のスキル持ちを取り込んでる」
「亜人を奴隷にしたがるのも、亜人の力を取り込みたいからだ」
「息のかかった者を他国に潜り込ませるのも常とう手段だな」
「ただ、真北に鉱山があり北西は闇の森、北東は森林地帯になっているのが救いだ。フルジリアが他国に攻め入ろうとすればそのいずれかを抜けていく必要があるからな」
「闇の森は名前の通り昼間でも光を殆ど通さない。闇を好む魔物を引き寄せ魔獣化も早い」
「鉱山はとても人の超えられる山ではないし、中を通り抜けるにしてもあの大きさの鉱山を掘り進めるのに一体どれだけ時間がかかるものか…森林地帯も闇の森の影響で魔物も魔獣も多い。他国に攻め入ろうとすればそこを通る必要があるから、それが未だに征服できない理由だ」
「そう言えばその森から出て来る魔獣を討伐するための勇者召喚だったっけ?出て来るのを倒せないのに森を抜けるなんてできるわけないか」
「そういうことだ。ただフルジリアに残っている3人の勇者がどう動くかで未来がどうなるかは分からんがな」
「あのバカトリオね…」
「バカトリオ?」
レオールが首をかしげる
「ミリアに仇なすおバカさんの事だよ」
「お姉ちゃんの敵!倒しに行く!」
「落ち着いてレオール。ドイセンも焚きつけないで」
立ち上がったレオールを引き戻して抗議する
「くっくっ…レオールも随分好戦的になったな」
「笑い事じゃないでしょパーシェ。狩りを始めてからどんどん攻撃的になって最初は大変だったんだから」
「亜人は魔物の血が入ってるからそれは仕方ない。まぁ成長と共に落ち着くから問題ないだろ」
「レオールにはいい師がいるようだしな」
「ホークたちのこと?」
「そうよ。魔法はミリアに、山の事はアネラに、弓の事はホークに、剣の事はシロヤに教えてもらってるんだもの。みんな殺すことだけを教えてるわけじゃないからレオールが殺人鬼になるようなことは無いわよ」
「キュリー…」
あまりの言葉に苦笑する
「漁も狩りも出来るし生活にも困らないんじゃない?」
ザックとクマリが魚を気に入ったせいか、レオールと共にネモとパリスから漁を教えてもらうことも増えた
男手が増えて大物が狙えるとネモも大喜びだという
勿論その魚肉は皆にも振舞われているのだけれど
とりあえず、ステータスの件はその場その場で判断することにして、久々の神様たちとの時間を楽しんだ
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