第52話 買物

「素敵なものがいっぱいあるわ」

「本当に。見るもの全て欲しくなってしまうわね」

4人は圧倒されたように店内を見回している


「そう言えばダリ達はお金はどういう管理をしてるの?」

「私たちは昔から1つのお財布よ。もともとお金というモノ自体使う機会が殆どないけど…」

そういえばグズリスで売って調味料を買うと言ってたくらいだっけ

「今まで私は何の力にもなれなかったから刺繍でお金が手に入るのは凄くうれしい」

シビルはこれも皆のお金なのと、当然の様に言う


そんな4人が今回購入したのは大きな鍋1つと大きめの網だけだった

「初めの内はこういう必需品と野菜ばかり買うことになるだろうけど、少しずつ皆で分けていくのもいいかもしれないわね」

「それはいいかもしれないわね。自分が欲しいものはそれを溜めて買えばいいものね」

とても平和な家族がここにあった


「さぁ、ミリア、次はギルドね?」

「売る気満々ね」

「そうよ?薬草をちゃんと持ってきたもの」

「わずかな金額でもコツコツ溜めればいいと思ってね」

魔物の素材に比べて薬草の売値はかなり安い

それでもダリ達は間引きも兼ねてそれなりの量を採取するし、捨てるくらいならと持ってきたのだ

売れなければ捨ててしまえばいいと言いながら…


それを一般人の売る場所に案内して買取を依頼したところ…

「こんなに貰っていいのかしら?」

とはカイナの言葉だ

「あぁ、こいつが中々手に入らなくてな」

それはまさに間引くためについでにと採取してきた分だった

「また手に入ったら頼むよ」

そんな言葉と共に見送られて4人は呆然としていた

「あれ、今まで全部燃やしてたんだけど…」

おっと…それはちょっと悲しいかも

確かに売れなければ捨ててしまえば…って言ってたけど

「まぁ、今度から売れるってわかったってことで」

「そ、そうね。シビルが刺繍の用事で来る時や、旦那たちが素材を売りに来る日に間引くことにしましょう」

「エリナも頑張る!」

「そうね。エリナも上手に採取できるものね」

褒められて満面の笑みになるエリナにちょっと癒された


「あ、お姉ちゃん!」

市場に向かってる途中で背後から声を掛けられた

「レオール、みんなも今から市場?」

「そう。ちょっと町をブラブラしてたんだ」

「ブラブラって言っても武器や防具の店だけどな」

ザックとクマリが答えてくれる

「おばさんたちはどうだった?」

「シビルの刺繍が凄くいい値で買ってもらえるみたい。それに今朝ついでに間引いた薬草が意外と高く売れてね」

「まじ?」

「素材も結構いい値段で売れたぞ」

「そうなの?」

「グズリスに来る商人は旅の代金を上乗せしてるんじゃないかって話してたところだ」

「まぁそれはそれで仕方ないんだろうがな」

自給自足に近い国に売りに来るのだから確かに仕方ないのかも

辺鄙なところにある自動販売機だってジュースが倍以上の値段で売ってることがあったしね


「さっき商会でお鍋と網を買ってきたの」

「あとは野菜ね」

「果物も!」

市場の中をうろつきながら目ぼしいものを購入していく

「レオールは何か食べたいものある?」

「ん…八宝菜」

「了解」

私は八宝菜に必要なモノを追加していく

レオールは肉が好きなのは変わらないものの野菜も好んで食べる


「持つ」

玉ねぎとジャガイモに似た野菜を入れた籠を抱えていたらレオールが横から持って行った

「…ありがとうレオール」

少し照れ臭そうな笑みを返されちょっとドキッとした

ダリ達があんなこと言うからだわ

なんてことを思いながら“今のは気のせいだ”と言い聞かせた


そう言えば最近一緒に市場に来た時は重いものをよく持ってくれてるような気がする

お会計するまでの短い間でも地味にありがたい

そんな私たちの様子をダリ達がニマニマと笑いながら見ていてことに私が気づくことは無かった

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