第49話 女子会

「ミリアおはよ~」

表が騒がしくなったのは、レオールとアネラが出かけてしばらくしてからだった

最近はレオールと出て行った時に、アネラがダリ達と戻ってくることが増えた

薬草や木の実を採ったついでに家に寄っていくのだ


「おはよう。どうぞ上がって」

そう言えばエリナが我先にと飛び込んでくる

「おはようミリア!」

「おはようエリナ。薬草は採れた?」

「ちゃんと採れたよ。ほら」

持っていた手提げバッグから取り出して見せてくれる

ちなみにこの手提げバッグは魔物の皮から作られている

「たくさん採れたのね?すごいわ」

褒めると嬉しそうに笑う


皆を通すのは応接間

2人掛けのソファーと1人掛けソファーが2つずつのソファーセットが置いてある

極力元の世界のものは置いてない部屋でもあるから、使うのはネモや彼女たちが来た時くらいだ


「そう言えば最近レオールの一人称が“僕”から“俺”になったんだけど何か知らない?」

何となく気になってたからついでとばかりに聞いてみる

「あ~それはザックとクマリのせいだわ」

ダリが苦笑しながら言う

「2人の?」

「そう。レオールだけ僕だからってからかったのよ。その後から俺になったの」

「そういうことか…」

「ごめんね。余計なこと覚えさせた?」

「大丈夫。そのうち変わるだろうとは思ってたから」

レオールの周りに居る男性陣の一人称はもれなく“俺”だからある意味必然かもしれない

人と関わる以上変化は当然だしね


「レオールはザックとマリクを真似ようとするからね」

「真似るほどいい手本じゃないんだけど…」

カイナの言葉にダリが申し訳なさそうに言う

「少し年上の同性って魅力的に見えるもんね。真似したくなる気持ちはよくわかるわ」

当の自分も女子大生に憧れてたもの

「確かにその通りね。最近のシビルはミリアの真似ばかりだもの」

「あらうれしい。でもそのうち追い抜かれるのよね?」

「…そうね」

すっごい複雑


「そう言えばシビルがこの間教えてもらった刺繍にはまったみたいでね」

「そうなの?」

「うん。これ」

シビルはバッグからハンカチを取り出した

前に教えた時に練習用にあげたものかな?

そこには花を付ける薬草が3種類描かれていた

「素敵。シビルこの絵はあなたが?」

「うん。小さい頃から絵は好きなの」

「そう言えばそうだったわね?」

「でも絵は黒い線しか書けないけど、刺繍なら色んな色で描けるからすごく楽しい」

そう言えばこの世界に色鉛筆やクレヨンなんてものは存在しない

あるのはインクを使う羽ペンだけだ

そのインクも黒しかない


「シビルはメルテルの祝福があるのよね?刺繍の特性を持ってたりするかしら?」

「あるよ。中級者レベルだけど」

シビルがステータスを見ながらそう言った時シビルが虹色の光に包まれた

「「「「「え?」」」」」

その場に居た皆が固まった

「お母さん今の何?」

「虹色の光…ザックとシビルが生まれた時に見たのと同じ光よね?」

カイナの声は震えていた


「シビル、ステータス確認してみなさい」

「わかった…あのね、刺繍が中級者からマスターに変わってるの!」

「フローナの祝福が付いたのね」

姿を見せてないけど来ているらしい

で、たまたま刺繍の話が出て大好きだと聞いてサクッと祝福を与えたと


「シビルの刺繍の腕が格段に上がってるはずよ」

「本当?」

「ええ。そこでシビルに提案なんだけどね、シビルの刺繍、売ってみない?」

「売る?」

「ミリア、そんなことできるの?」

カイナが戸惑いながらも訪ねて来る


「町の商会と親しくさせてもらってるんだけどね、刺繍の作品を増やしたいらしいの」

「町の…」

そう言えばみんなは町に行ったことがなかったんだっけ

亜人は売り買いでなく物々交換が主らしい

森の中に住む彼らはお金を持たず、完全なる自給自足の生活だ


「私も依頼されて作ってるのよ。売り物にするにはマスターレベルじゃないと厳しいんだけど中々いないらしくてね」

だから売り数を増やせないのだと嘆いていた

ただしメルは出来上がった作品で判断しているだけで特性やそのレベルの事は知らない

たまたま上級者の人が持ってきた作品を売れないと言っていたことで私が判断しただけだ

「シビルがマスターレベルになったってことは…」

「そういうこと。シビルの作品は売ることができる」

「じゃぁ、そのお金で町で野菜を買うこともできる?」

「もちろんよ」

シビルたちが顔を見合わせる

「ミリア、私やってみたい!」

「じゃぁハンカチを3枚作ってくれる。材料は後で渡すから」

「どうして?」

「口で説明するより実際に作品を見せる方が話が早いからね。全部違う柄でできる?」

「大丈夫!」

シビルは大きく頷いた


「ハンカチが出来たら一緒に町に行って商会の人と交渉ね」

「私町に行ったことが無いんだけど」

「もちろん私も一緒に行くわ」

「私も町行きたい!」

エリナが期待に満ちた顔で言う

「せっかくだから皆で行く?」

「私たちが町になんていいのかしら?」

ダリが不安そうに言う


「身分証は有るのよね?」

「もちろんよ。この子たちもグズリスで届を出してるもの」

「なら何の問題もないわよ。塀の中に住む場合と魚や肉を買うときは亜人が嫌な思いをするらしいんだけど…」

「知ってるわ。塀の中に住もうとすれば鎖につながれると同等だって。だから森の中に住んでるんだもの」

ダリの言葉にカイナも頷いている


「魚や肉は塀の中の人優先らしくて、亜人に限らず住人以外は残り物しか買えないらしいの。それが問題なければ町の出入り自体は自由よ」

商会のカードがあれば違うみたいだけど…

初めて町に行った時の対応の変わりようを思い出して少し苛立った

「肉も魚も買う必要ないよ?」

「そうね。肉は自分たちで狩れるし、魚はネモ達のお陰で食べれるようになったもの」

私たちと同様ネモと物々交換をしているのだ

最近はレオールとザック、クマリの3人でネモのところまで行っているらしい

それとは別に麓まで降りてきたついでにと女性陣皆でシーラを訪ねることもある

その間シビルとエリナはメイアと遊んでると言っていた


「でも服や雑貨は興味があるのよね」

うん。女性はそこが気になるよね

「なら商会は丁度いいと思うわ。雑貨も服も置いてるから。私もここに越してきたときに商会で色々買いそろえたもの」

まだそんなに時間が立ってないはずなのにすでに懐かしい思い出になっている


「そう言えば魔物の素材はどうしてるの?」

「それはグズリスで出入りしてる商人に売ってるわ。そのお金で服と調味料を買ってくるの」

「でも品ぞろえは良くないのよね」

行商に近い感じならそんなに取り揃えられないのかな?

「だったら町のギルドで売ってもいいかも」

「売れるの?」

「うん。私もレオールも売ってるよ」


レオールは狩りを始めてからレオと言う名前で冒険者として登録した

あえて依頼を受けに行ったりはしないけど、持ってる素材が依頼で出ている時は受けたその場で完了させているらしい

これはバッカスからのアドバイスだ

グズリスにいた時は身分証を持っていたんだろうけど、両親のどちらかが持っていたのかレオールの手元には無なかった

そのままにしておくわけにもいかないので、狩りもするし、手軽に登録できる冒険者登録という方法を選んだ


「冒険者じゃなくても素材を売ることは出来るからね」

「じゃぁ今度町に行くときに売りに行ってもいい?」

「私も売りに行くから大丈夫。その近くに市場があるから野菜も見れるよ」

「それは食事が楽しくなりそう」

「ミリアに会ってからいいことばかりね」

「本当よね。狩りすぎた肉を捨てることもなくなったし…」

「ジャーキーおいしい!」

エリナがそう言いながらバッグからジャーキーを取り出した

魔法を教えた時にジャーキーのつくり方もついでに教えてきたのだ


「先週シロヤがグズリスに行った時に一族にも教えたらしいの」

「グズリスは食料が足りない時が多いからきっとすぐに広まるわ」

「大量に取れた時は捨てる羽目になるのにね…」

冷蔵庫のようなものが無いのでどうしようもない

「そういう意味ではミリアはグズリスの救世主かも」

「それは勘弁してね?できれば名前は出さないで」

「どうして?」

「私は静かに暮らしたいから。レオールの事もあるしね」

「まぁ…確かにそうよね」

「旦那たちにも口止めしとくわ」

すぐに察してくれるのは非常にありがたい


その後は町で見たいモノや素材を少しでも高く買ってもらえるように洗浄する方法なんかで盛り上がり、帰り際にシビルに色の違うハンカチを3枚渡しておいた

どんなものが出来上がるか楽しみだ

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