第48話 おだやかな時間

ホークたちと出会った翌日から、レオールはよくホークたちと狩りに出るようになった

アネラと共にホークたちの住む洞窟に向かい、そこから一緒に狩りに向かうのだ

今日も帰ってくるなりレオールはその日の出来事を怒涛の勢いで話し出す


「ホークたちは魔法使わないんだ。ホークとザックは弓で、シロヤとクマリは剣を使うんだよ」

そう言ってきたのは彼らと出会った翌日だった

その後特に何も言ってなかったから気にも留めていなかったけど…


「今日からシロヤに弓を教えてもらうことになったんだ」

「そうなの?」

「うん。クマリが練習に使ってた弓を貸してもらったんだ。最初は全然当たらなかったけど昼前にウッドバードを仕留められたんだ」

「すごいわレオール。使い始めたその日に当たるようになったなんて…」

「へへ…」

照れ臭そうに笑いながらも尻尾がブンブン揺れていた

言葉や表情よりも明らかに雄弁な尻尾に自然と笑みがこぼれる


「ウッドバードで唐揚げ作って?」

「いいわよ」

頷くとすぐにウッドバードの肉を取り出した

勿論、解体済である

かなり大きめのを仕留めたらしい

「キッチンに置いとく」

重さがあるからかそう言ってすぐにキッチンに持って行った


私は後を追う様にキッチンに向かい準備を始めた

レオールは当然のように手伝いをする

フワリフワリと揺れる尻尾を見る限りこの時間も楽しんでるらしい

「これでいい?」

「うん。それで大丈夫。後は油で揚げるだけね。レオールはお皿を出してキャベツを切ってくれる?」

「分かった」

レオールが初めて弓で仕留めたウッドバードは心なしかいつもと違う味がした



ホークとシロヤは自分たちの子供と同じようにレオールを叱ったり褒めたりしてくれるという

知らないことも馬鹿にしたりせず丁寧に教えてくれると大喜びだ

“見本になるザックとクマリがいるせいか上達が早いといとこぼしていた”とダリが言っていた

「ホークとシロヤといる時間は父さんといた時に似てる」

自分から両親の事を口にしたのは初めてだけど、そう言ったレオールの顔は穏やかだった

「良かったね」

「うん。それでね、弓を教えてもらう代わりに魔法を教えてあげたんだ」

「あら、ザックたちも使ったことなかったの?」

「そうみたい。ステータスの事も初めて知ったって言ってた」

やっぱり情報自体が流れてないんだろうか?

そういえば神様に確認するのを忘れていたなと思い出す


「でも俺は地魔法が使えないから魔力のことしか説明できなくて…」

レオールの耳がペタンと折りたたまれた

しょげてる

その姿が可愛くてもう少し見ていたい気もするけど流石に可哀そうよね?

笑みが零れそうなのをこらえて提案する

「じゃぁ魔法は私が見せてあげた方がいいかな?」

言った途端耳がピクピク動いて尻尾が大きく揺れ始めた

「ザックに地魔法、シビルに木魔法ね」

「うん!」

翌日魔法を教えることに決まった


こんな風に行き当たりばったりで予定を立てる事なんて無かったのにすごく不思議

私は几帳面な母と優柔不断な父の間に生まれた

父の計画性のない行動が嫌な母は、私が物心ついた頃から計画を立てて遂行することを教え込み、それをしっかり実行していた

5歳の時に亡くなったのにまさに“3つ子の魂100まで”だと思う


「お姉ちゃん?」

レオールが心配そうに覗き込んでいた

「ちょっと昔を思い出しただけ。大丈夫よ」

笑って返せば安心したように表情を緩めた

些細な変化に気付いてくれる人が側にいるって贅沢だなぁ…

そんなことを子供相手に思うのもどうかと思うけど、不思議と心が温かくなる気がした

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る