第47話 今後の対策(side:ナオト)

夕方になる前だったせいか、ギルド内は人もまばらで素材の買取はすぐに終わった

「結構な額になったな」

現金で受け取っていた売却金をカードに入金してもらってギルドを出る

ギルドカードには俺のステータスと共に入金されている残高も表示されている

大抵の店はカードで払うことができるし、どの国でも使うことが出来るからかなり便利だ

今まではフルジリアから支給されていたお金だけをカードに入金していた

そのお金で武器や防具を揃えさせて貰ったから殆ど残金はなかったけど…

カードを捨てる時にその残金のことだけはちょっと悩んだけど、全額引き出せば余計に怪しまれるだろうからそのままにしておいた


「4家族もいるならもう少し下ろしといても良かったか…?」

そう思ったけど道中、ウサギ族が倒してくれる魔物も結構いるから気にしないことにした

これまで監視されているという印象が強かったから、ギルドで得た金は全部マジックバッグに入れていた

その蓄えもそれなりにあるから当分は心配ないだろうというのも気にしなくてもいいと思った理由の一つだ


俺は離れた場所にある5つの店を回って、それぞれの店でテントと毛布類、携帯食をまとめて購入した

1つの店で大量購入したら記憶に残りやすいだろうから念のためだ

買い物が済んだら約束してた宿に入り夕食を先に済ませておいた

意外とうまい飯だった

「あと1時間ほどしたら酒場になるから気が向いたら足を運んでおくれ」

おかみさんがそう言って見送ってくれた


1人の個室に戻るなり地図を広げて考える

「海沿いを行くか北に進むか…」

海沿いには小さい国が点在してるから、旅人や冒険者、商人は大抵海沿いを進む

北に1時間ほど進むと釣りに適した大きな川があるためそこまでは道がある

でもその先はあまり人が踏み入れないらしく森林地帯が広がっている

道はあっても精々獣道程度だろう


「目撃情報を避けるなら北か」

テントや毛布を買ったからここまでの道のりよりは楽になるはず

闇の森で1か月過ごした後だからか、子供達ですら然程疲れた様子は見せない

「亜人はすげぇな…」

正直ちょっと憧れるレベルだった


食堂が酒場に変わって少ししてから足を踏み入れると、既に2人それぞれに別の人と飲んでいた

「よう兄ちゃん、いい夜だな」

「ああ。酒の上手い夜だ」

適当に返しながら乾杯しては酒を飲む

我ながら意味の分からない返しをしたものだと思いながら、少し話をしてから偶々開いて隅の席に座った


「どうだ1杯」

年配の親父がビールに近い酒を目の前に置いた

これは飲み比べの誘いらしい

「望むところだ」

答えるなりグラスを突き合わせて飲み始める

この酒は元の世界で言うならシャンディガフに似てる

俺にとってはジュースと変わらないな

そう思いながら一気に飲み干した


「ふぅ…」

久々の炭酸は腹に来る

「いい飲みっぷりだ。また機会があれば頼むよ」

「ああ、御馳走さん」

そう言って去っていく

何とも気軽な付き合いだ

1人で静かに飲みたい奴にはあり得ない状況だろうけど…


「よう、どうだ?」

「あぁ、いただこう」

座ったのはオルガだ

少し話をしていると他の3人もやってきた


「“大人の男女4人と子供を連れた集団を見かけたら報告するように”と国民に指示が出ているらしい」

「こっちも聞いた。おそらくフルジリアからの要請だろうが、その理由もそれ以上の情報も知らされてないらしいな」

それが一番気になる情報だった

他にも小さいものはいくつかあったが大した情報ではないと結論付けた

そんな話の途中でも意味もなく笑ったり乾杯するのは忘れない

話し込むだけでは確実に怪しい集団になるからだ


「明日、起きた者から入ってきた門から出よう。落ち合うのはダイナベを出て北へ1時間ほど行った先にある川を超えたあたりだ。川までは道があるから、もし誰かに見られてるようなら川で少し釣りをして誤魔化した方がいい」

示し合わせるのはそれだけで十分だろう

「俺はそろそろ限界だ。いい酒だった」

1人がそう言いながら階段を上がっていく

少しすると知らない男が入って来て酒を酌み交わし、俺達も思い思いに散ってから時間をずらして部屋に戻った


翌日皆で落ち合うと足を進めながら今後の計画を立てる

念のためこの先、国に寄る時は俺ともう一人だけが入って様子を伺うことになった

グズリスに着くまで極力大きな通りは進まず森の中を進むため、俺は魔獣を、ウサギ族は魔物をメインで倒す

ギルドに協力してもらってる以上、勇者としての役割も少しは果たしておきたいと思ったからだ

闇の森と違い大半の森では魔物がいたため食事に困ることも少ないが、国に入った際に、素材の売却と携帯食の補充だけは多めにしておくことにした

町で購入する果物を食べる子供達を見ると長い旅の中でも癒される

必ず彼らをグズリスに送り届けたい

何の使命があるわけでもないのにそう思っていた

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