第46話 ダイナベ(side:ナオト)

ナオトたちがダイナベの町を視界にとらえたのは闇の森を出てから約2週間経った頃だった

「ようやく町が見えて来たな」

疲れが出ると思っていた俺は、闇の森から遠ざかるにつれて元気になるウサギ族に驚く日々を送っていた

「この辺で町に入ってからの事を相談しておこう」

「そうね。フルジリアからの通達が先に届いてる可能性もあるし…」

即座に頷いたのはリーダー格のオルガの妻であるジャクリンだ


「とりあえず町の中では人化を解かないこと」

「あと、誰かに行先を訪ねられても、いろんな国を回ってるからわからないと返しなさい」

女性たちが子供達に向かって言うと揃って頷いている


「ダイナベは門が4つある1家族ずつ別の門から入った方がいいだろう。俺はフルジリアで2家族ほどだと報告しているからな」

「分かったわ。町の中でも揃っての行動はさけた方がいいってことね?」

「ああ。ただし家族連れだから宿は一緒にしても問題ないはずだ。正門の近くにある緑の建物だ。そこは一番大きくて大部屋が中心だからな」

大部屋というのは8人の相部屋の事だ

「その宿は食事の後に食堂を解放して酒場になる。ダイナベでは初対面だろうとそうでなかろうと酒を酌み交わすのは当たり前だからそれを利用して情報を共有しよう」

「なるほど。ならナオトはどこかのテーブル席についててくれればいい。俺達は自分のタイミングで酒場に入り、何人か別の者と酌み交わしてからナオトの元に行けばいいだろう」

「町に入ったら私たちが情報収集をするわ。女性の方が口が軽いでしょうから」

ジャクリンが任せてと微笑んだ


「俺はギルドカードを捨てたから作り直す必要がある。町に入ったらすぐにギルドに向かう。その後素材の売却と食料なんかの調達をしておこう」

「身分証のない者の単独入国は時間がかかる。ナオトは俺達と一緒に入ればいいだろう」

「そうだな。小さい町だし身分証の内容までは確認されないだろうが、時間がかかるのは避けるべきだ」

それぞれに言いたいことを言い、話をまとめて1家族ずつ出発した

入るタイミングも使う門も違えばそうそう疑わしくもないはずだからだ


予想通り、俺の入国もオルガが保証人になるという一言で入国料だけ払って簡単に終わった

「助かったよオルガ。じゃぁ後で」

「おう。お互い気を付けよう」

入って少しした場所で一旦別れた俺はギルドに向かう


「さてどうするか」

突然入ってギルドマスターと話を付けるのは難しい

ならば出てこざるを得ない状況にしなければならない

「これを使うか」

取り出したのは闇の森を出る手前で倒した強い魔物の素材だ

この付近で出れば大変なことになるだろう


「すまない。このことでちょっとギルドマスターと話がしたいんだが」

なるべく周りに聞こえないように小声で伝える

「こ…これは…!」

声を上げそうなスタッフに静かにと、口の前で指を立てて伝える

「あ…申し訳ありません。すぐに…!」

慌てて2階に上がって行ったスタッフはすぐに呼びに来た

「こちらで」

ドアを開けて中に通された先にはガタイのデカい大きな男が眉間にしわを寄せて座っていた


「…で、とんでもないものを持ってきたと聞いたが?」

早速とばかりに聞いてくる

「すまない。あなたに取り次いでもらいたくて素材を利用させてもらった」

「何だと?」

明らかに怒りをあらわにした

「俺はあなたにもこの国にも敵意はない。話だけでも聞いてもらえないだろうか」

「…とりあえず聞くだけ聞いてやる。内容によっては牢屋行きを覚悟しろ」

その言葉は重く響く

それでも頷く以外の選択肢はない


俺はその上で勇者召喚のことから説明をした

そして新しいギルドカードを作ってもらいたいと締めくくる

長い沈黙に息苦しくなる

それでもただ答えを待つしかなかった

「まさかと思ったがフルジリアならと納得してしまうのも事実…いいだろう。ギルドはナオトの後ろ盾になると約束しよう」

「本当か?」

「ああ。フルジリアにはギルドとしても思うところがある。あの素材を手に入れることができる冒険者を野放しにするのも惜しいということだ」

「…感謝する」

俺はホッとして詰めてた息を吐きだした


「王族が追跡する際は登録名が必要だ。陛下がが知ってる登録名はナオト・ツムラだな?」

「ああ。この世界に来てすぐに登録したからそのままの名前で登録してる」

多少疑問や不信感はあっても面と向かって逆らうのはまずいと思った結果だけどな

「念のためナオトやツムラで登録し直すのは避けた方がいいな」

カード紛失や再発行の事を想定してナオトやツムラで追跡することはあるだろうという


そう言われても俺はアナグラムや命名のセンスは皆無だ

「ラナオ、ならどうだ?元の世界ではナオトツムラじゃなくツムラナオトの並びだった。その一部を取ってみたんだが」

「ほぅ。それは奴らにはたどり着けないかもしれないな。俺でも考えもしない」

ギルドマスターの言葉で登録名が決まり、その場でカードを発行してもらうことが出来た


「素材の買取も頼みたいんだが」

「それは下で受け付けてる。例の素材も売ってくれるのか?」

「まぁ使い道もないからな」

武器の素材になるらしいが俺のメインの攻撃手段は魔法だ


「ギルドは基本的に国に関与しないが…もしこの先困ったことがあればこの手紙を渡せ」

「…いいのか?」

「乗り掛かった舟だ。それに残りの3人がどう動くかわからない以上、お前の存在は頼みの綱でもある」

「なるほど。そういうことなら遠慮なく」

手紙を受け取りバッグにしまう

「素材の買取は階段を下りて右だ」

「分かった。恩に着る」

そう言い残して部屋を出た

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