第44話 発見した

「そういえば森の亜人さんがいるのはどの辺りなの?」

『この沼よりもう少し上がったところ』

「え?そんな近く?」

今私たちがいるのは沼事件のあった沼の側

狩りをしながら歩いても家から30分ほどの場所だったりする

「お姉ちゃん5匹来た」

「うん。来てるね。右側の2匹は私が行くわ」

『じゃぁ私は真ん中のを貰おうかな』

「分かった!」

それぞれが向かう先を確認して仕留めにかかる

今のレオールなら1人で5匹くらいなら簡単に仕留めそうだけどね

それを裏付けるかのようにサクッと仕留めて戻ってきた

私も魔法でサクッと仕留める

アネラだけは魔物が可哀想な仕留め方だったけど…


「おかあさん誰か来たよ~」

そんな声が聞こえたのは沼から離れて10分程した時だった

おそらく声の主であろう少女が飛び出してきたのは洞窟のような場所からで、それがなかったら普通に見過ごしていたかもしれないような、うまく自然と同化した場所だ

「エリナ!勝手に外に出たらダメって何度言ったら…」

「だって話し声が聞こえたんだもん」

レオールよりも少し下に見えるエリナと呼ばれた少女はしょぼくれながらそう言った


「こんにちは」

とりあえず、挨拶をと声をかける

「あんたたちは…」

「少し前にこの麓に越してきたミリアです。この子は私の従魔でアネラと同じ頃に保護したレオールです」

「…ここに何しに?」

かなり警戒されている

当然と言えばとうぜんよね


「海辺に住むアザラシの亜人、ネモ達に森にも亜人が2家族住んでるって聞いたからお近づきになりたくて」

「亜人と知ってなお知り合いたいと?」

「ええ。この子には亜人の友達がいた方がいいと思って」

レオールの肩に手を置いて言うと女性は訝しげに見て来る

「何でだい?」

「この子も亜人なんです」

「えー?!」

女性が驚いた声を上げたせいか洞窟の奥から人が出て来た


「どうしたのカイナ、何かあったの?」

「ダリ、人が尋ねて来たんだけど…その子が亜人の子だって…」

レオールを指さして言う

ダリと呼ばれた女性の後ろから2人の男性と青年が1人、男の子と女の子が1人ずつ顔を見せる

「少し前にこの麓に越してきたミリアです。この子は私の従魔でアネラと同じころに保護したレオールです」

カイナと呼ばれた女性にした自己紹介を繰り返す


「レオールは狼の亜人で、私としては同じ亜人の友達がいた方がいいと思って訪ねさせてもらったんだけど…」

「レオール?狼の…まさかアモンとリーンの子か?」

「…そう、だけど…」

レオールは戸惑いながらも頷いた

「この子の事をご存知なんですか?」

「直接会ったことは無い。でも我々狐族と鹿族は狼族に世話になっていたんだ。だからアモンとリーンが子と一緒に失踪した時はこっちにも情報は来ていた」

「親子そろってもう亡くなったときいていたが…まさか生きていたとは」

戸惑いの中に喜びが見える


「すまない。俺は狐族のホークだ。こっちは妻のダリに長男のザックと次男のクマリ」

ホークの言葉に3人がペコリと軽く頭を下げた

「俺は鹿族のシロヤ、妻のカイナと長女のシビル、次女のエリナだ」

「私たちは自然が好きでね、国から出てこの森に移り住んだのは20年程前なんだ」

「一族の者と険悪なわけじゃないがここが気に入ってね」

ホークとシロヤはそう言って穏やかな顔をする


「そう言えばさっきレオールの事は保護したと…ミリアはヒューマン、よね?」

「ヒューマンが亜人を保護するなんて聞いたことが無いのだけど」

「後から知って驚きはしたけど種族なんて関係ないとでしょう?レオールはいい子だし、海で知り合ったアザラシの亜人、ネモとも近所づきあいさせてもらってるもの」

「ミリアは変わってるのね」

「よければ中に入って?ゆっくりしていってほしいわ」

ダリの言葉にみんなで中に入って話をすることになった


『ミリア、私は泉に行ってるわね』

アネモはそう言って走って行った

「あの従魔は?」

「森の中に好きな場所があってそっちに」

心配ないと伝えるとホッとしたように頷いた


洞窟の中は普通の部屋のような空間が広がっていた

「すごい!」

「本当ね。素敵な空間だわ」

レオールと2人感嘆の声を上げてしまうくらいには落ち着ける空間だった

勧められた椅子に座ると果実水と果実の入った籠が出された

「少し聞きにくいのだけど…」

「なに?」

「レオールのご両親は…」

「2人共もうこの世には…この子自身も危なかったの」

俯いたレオールの代わりに簡単に説明した


レオールの手が私のスカートを握った

私はその手に触れる

「この子はフルジリアに狙われてるみたいなの。フルジリアから餌をぶら下げられて食いついたのは熊族だったそうよ」

「熊族…」

「そう言えば少し前にウサギ族が熊族と一緒に国を出たって言ってなかった?」

「ええ。4家族ほどだと聞いたけど、周りは皆反対してたみたいだし…」


「フルジリアは亜人を奴隷にする国だ。囚われれば力を封じられると聞いたことがある」

「ヒューマンの何倍もある亜人の力を封じる…そういう魔道具があるってこと?」

「おそらくな。レオールがフルジリアから狙われたとすればその血故か?」

ホークの言葉に頷いて返す

「なるほど。ようやく理解できた」


「父さん、どういうこと?」

「あぁ、狼族はどの種族よりも結束が固いんだ。レオールの事もきっと一族で守ろうとしたんだろう。でも、アモンとリーンはそのことで一族を危機にさらすのを良しとする奴じゃなかった」

「そうだな。いつも一族や他の亜人の事を気にかけてた。俺達だって事情を知ってれば守りに徹しただろう」

「…だから国を出たのね。この子を連れて」

「2人が亡くなったのは残念だ。でもレオールが生きていてくれたことは神に感謝する。レオールを救ってくれたミリアにもだ」


レオールもレオールのご両親も亜人の国で愛されていたのだと嫌でもわかる

「今はまだレオールが生きてることは伏せておいてもらえませんか?」

「…そうね。熊族の事が解決しない限りレオールの身が危険だものね」

「大丈夫。私たちはあなた達の許可が出るまで誰にも話さないわ」

ダリとカイナの言葉に皆も頷いてくれる


「俺達は定期的に国に顔を出してるんだ。その時に得た情報を2人にも共有した方がいいと思うんだが…」

「それは凄く有り難いわ。いつかレオールを連れて行ってあげたいと思ってたから」

そう言った私をレオールが不思議そうに見上げた

「レオールが無事な姿を、レオールを大切にしてくれた人たちに見せてあげないとね?」

「ぅん…」

泣きそうな顔になったレオールの頭をなでるとクシャクシャな顔で笑った

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