第41話 合流(side:ナオト)

翌朝、早めに起きて王宮を出ると王都を通り抜け闇の森へ向かう

「勇者様!いつもありがとう!」

「お気をつけて!」

そんな見送りの言葉も全て目撃証言に使えるだろう

「すぐ見つかるといいけどな」

昨日見かけた場所に向かいそこを中心にして探すことにした


この森に入る以上呑気に旅をしてるわけもない

おそらく向こうも警戒しながら動いてるはずだ

カードに記録される以上怪しまれない程度には魔獣も倒さなければならない

明朝から出てきたにもかかわらず気付いてみれば昼を過ぎていた


「え?」

水の音が聞こえて丁度いいと向かった先で俺はあっけにとられた

そこには20人のウサギ族が呑気にご飯を食べていたからだ

「…すまない。水の音に惹かれて来たんだが」

警戒される前にここに来た理由を告げてみる

「我々もですよ。良ければ一緒にいかがですか?」

警戒以前の問題だった

側に寄ってきた子供に腕を引かれるまま輪に入る

軽く自己紹介と世間話をしたところでリーダー格の男が切り出した


「我々はこの森の中に置き去りにされたんですよ」

「置き去り?」

「ええ。元々は亜人の国グズリスで、なんてことない平和な日々を過ごしてました。あの日、熊族にそそのかされるまでは」

「熊族は闇の森の向こう、フルジリアで亜人の町を作るという話を持ってきました。フルジリアは豊かな国と聞いていたので飛びついてしまった」

「なぜそんな怪しい話に飛びついたんです?」

「グズリスは数年前から食料を入手し辛くなっていたんです。農地が痩せて動物も魔物も寄り付かなくなっていた。亜人の数もずいぶん減りました」

「子ども達に腹いっぱい食わせてやりたくて俺達はフルジリアに向かうことにした」

「ウサギ族皆ですか?」

「まさか。ここにいるのは1/5もおりません。随分反対されて、それを押し切ってきたんです。それが間違いだったわけですがね」


「間違いだとしてもなぜ森に留まってる?フルジリアはここから半日もかからないじゃないか」

「我々は熊族の用意してくれた馬車2台で来たんです。でもこの闇の森に入って1日走ったあたりで魔獣に襲われ馬車から放り出されました」

「熊族は最初こそ対抗していましたが、途中であきらめて逃げました」

「幸運と言っていいのか魔獣が熊族を追って行ってくれたおかげで我々は命拾いしたんです」

「方角もわからず森をさまよって既にひと月。しかしそうですか…我々はあと半日の場所を長らくさまよっていたということですか…」

落胆した声だった


「でもそれならフルジリアに行けるってことだよね?」

子供が喜びを含んだ声で聞く

「そうだな。そういうことだな」

「よかったわ。このままこの森で死ぬのを待つだけだと思ってたから…」

「少し前から現れる魔獣が弱くなったとはいえ流石に疲れがたまってきたからな…」

所々傷を持つ男たちがホッとしたように言う


「…喜んでるところ悪いがフルジリアにはいかない方がいい」

「どういうことだね?」

挑むような視線と沢山の殺気

「フルジリアの王ジャッキーは亜人の女性を奴隷にして力を封じて襲うのが趣味らしい」

そう告げると女性が息をのむのが分かった

「それが本当だとしてあんたがなぜそれを知っている?」

「俺はこの森の魔獣を討伐するのが目的でフルジリアに召喚された勇者の一人だ」

「勇者…」

「勇者って?」

「聞いたことはある。国に危機が迫った時に神が助けてくれることがあると。その時に勇者が現れると」

「あなたがその勇者?」

子供達の期待するような目に頷いて返す


「すまない。俺は昨日この付近でウサギ族を見かけたとジャッキーに報告してしまった。俺としてはこんな魔獣の溢れる森でさ迷ってるあなた達を保護した方がいいと思ったからだったんだが…」

「その報告した時に何かがあったということか?」

「その通りだ…ジャッキーは亜人を奴隷にする指示を出していた。明日の昼には保護と称してあなた達を捕えに森に入ってくる」

「なんだと?」

子供達を守る様に親が抱きしめた

「だから俺は朝からあなた達を探してたんだ。ここにたどり着いたのは偶然だったが…」

「…探してどうするつもりだ?返答によってはここで死んでもらうことになるぞ?」

「誤解しないでくれ。俺はあなた達を逃がしたい。同時に俺もフルジリアから逃れたい」

「あんたも?」

「勇者が何で?」

「簡単に言えば国民に称えられる俺が邪魔になったらしい。ジャッキーの傀儡にならない時は排除するしかないと言ってるのを聞いた。それにあなた達を捕らえたら、奴隷にしたのは俺だと触れ回る計画もされてる」

目の前の男の目を真っすぐ見て俺はそう説明した


「…信じよう」

「え?」

「あんたの目に嘘はない」

その言葉に周りから安堵の声が漏れた

「俺は真実を見抜くことができるユニークスキルを持ってる。相手の目を見れば言ってることが嘘かどうかわかる力だ」

そんな力もあるのか


「あんたはこの森を抜けることは出来るのか?」

「もちろんだ。フルジリアに抜けることも北に抜けることもできる」

「この森を抜けるのに必要な日数は?」

「フルジリアへは半日、ポルタナ方面に抜けるには4日、そこから国まで3日、ダイナベ方面なら5日、国まで6日。子どもの足でも亜人ならそれプラス数日あれば十分だろう」

「何てこと…」

「さ迷ってた日々は何だったんだ…」

突然放り出されたなら仕方がないとは言え簡単には受け入れられないだろう


「俺としてはダイナベ方面に抜けてグズリス迄送ろうと思ってたんだが…」

「な…グズリス迄送る、だと?」

「昨日見かけた子供がやせ細ってたからな。何か訳ありなんだろうとは思ってたんだ」

「しかし近い場所ではないぞ?」

「ひと月かかると聞いている。子どもがいればもう少しかかるだろうが…フルジリアからの追手が来る可能性もある以上頑張って帰れと投げ出すわけにもいかない」

「ポルタナからハーレンへ向かってはダメなのか?」

「ハーレンは亜人に友好的な国だ」

「友好的だからこそ避けるべきだと思う。追う側の人間もそう考えるだろうからな」

そう返すと黙り込んでしまった


「…とりあえずあなた達は満足に食えてなさそうに見える。これからの移動を考えるとそのままじゃ辛いだろう」

俺はそう言いながらポーチから携帯食を取り出した

フルジリアを出る時の為に少しずつ買い溜めて来た物だ

「これ1つでそれなりに腹が膨れるはずだ。全員分有るからまず食ってくれ」

「いいのか?」

「むしろ食ってくれた方がいい。北へ行くほど魔獣が強くなる。俺にはこの人数を守りながら戦うほどの力はないからな」

空腹状態では亜人でも力を満足に出せないはずだ

20人の内大人は12人でその半分が男

女が子供を守りに入っても6人の戦闘力が増えるなら森を抜けるのも問題ないだろう

「そういうことなら有り難くいただこう。感謝する」

「気にすんな。お前らもしっかり食えよ」

子供達は頷くと我先にと食べ始めた


「グズリス迄同行してもらえるならこれほどありがたいことは無い。我々はあんたのプランに従うよ」

「分かった。じゃぁそれを食い終わったら水を確保して出発しよう。明日の昼までにできるだけフルジリアから離れたい」

こうして俺はウサギ族20人と闇の森を抜けるべく動き出した

途中俺だけ離脱して別方向や少し戻った位置で魔獣を討伐することで通常通り勇者として討伐しているとカモフラージュしながら進む

更にポルタナ方面の出口付近でしばらく討伐してから、次は全く討伐することなくダイナベ方面に向かったウサギ族を追う

その途中、海に面した崖からギルドカードを投げ捨てた

その間フルジリアから半日の付近を騎士達が散々探し回っていたことを俺が知る日は来ない

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