第40話 危険視(side:ナオト)

「あ」

少し歩いたところで伝え忘れたことがあったことに気付き来た道を戻る


部屋のドアをノックしようと手を持ち上げた時だった

「ウサギ族の亜人ということは例の熊族が連れてきた者達だろう。死にぞこないが失敗したと報告してきたが流石は亜人と言うことか。特に女を必ず捉えさせろ。勿論子供も含めてな」

「陛下もお好きですな?」

「亜人に力を封じる枷を付けて犯す。あの快感は他では得られんからな」

ジャッキーの下品な笑いが響く

気付いたら俺は上げた手を降ろしていた


「それにしてもナオト殿の評判は少々目障りになってきましたな」

俺?

不意に出てきた自分の名前に耳を澄ませる

「このままでは王侯貴族の名誉が危うくなるのも時間の問題かと」

ガーナとセリドの言葉に、ジャッキーの唸る声に息をのんだ

「明日の朝食のスープに媚薬を仕込ませろ。それで女に落ちればメス勇者同様言いなりにすればいい」

「落ちなければ?」

「排除するしかなかろう?騎士達で叶わんレベルの魔獣は討伐を終えたと聞いている。今後の討伐は騎士とメス勇者で問題なかろう?」

「メス勇者は今や男娼たちの言いなりですからな。元々体を責めるまでもなく簡単に堕ちたようですが」

「そうだったのか?」

「どうやら甘い言葉と軽いスキンシップだけで堕ちたようですよ?どれだけ偉ぶっても所詮は小娘と言うことでしょう。今は彼らの飴と鞭で順調に魔法の習得に勤しんでるようです」

「実際に討伐に出てからどう化けるかはまだわかりませんが…3人もいれば1人ぐらいは手元に残せるでしょう」

その言葉に俺は拳を握りしめていた

あいつらに同情する気は全くない

でもあいつらも含めて駒としか思っていないこの国に怒りが沸き上がる


「ただしナオト殿に関しては面と向かって捉えるのは得策ではないでしょう。今回の亜人を使うのも手かと」

「どういうことだ?」

「ナオト殿の強さを考えれば騎士が束でかかっても捉える事すら出来ないかもしれません」

「…確かにそれは有り得ない話ではないな」

「そこで亜人です。亜人を奴隷にするのを良く思わない国が増えた今、自由に捕まえるのは危険でしょう。表向きにはナオト殿が亜人を不当に捉え、奴隷にしたことにすればいい」

「なるほど?万が一捉えられずとも勇者が亜人を奴隷にしたとなれば、どの国も受け入れることは無いか」

「実際は陛下が楽しむだけです。うまくいけば奴らの仲間をおびき出すこともできるかもしれませんな」

「その為にも明後日の保護と称した亜人狩りを成功させねばなりませんな。保護した事実を国民に見せ、その後ナオト殿が攫ったということにすれば誰も疑いますまい。彼にはその力がありますからな」

「しかし捉え損ねたとして野放しにするのは危険では?」

「問題ない。その為のギルドカードだ」

なに?

ジャッキーの言葉に俺は自分の顔がこわばるのが分かった


「ギルドカードは常に魔物や魔獣の討伐位置と数が記録される。本来冒険者自身が提示したカードの内容は専用の魔道具でしか確認できん。だが王族の血を引く者の魔力があれば個人を指定してその内容を見ることが出来る魔道具がある」

「ほぅ。つまり居場所を追うことができるということですか?」

「そうだ。ギルドカードがその個人から10km以上離れると記録が出来なくなるがそれを知る者は限られた者のみだ。ギルドは使わなくとも身分証としては使わざるを得ない。そういう意味でも問題なかろう」

「通常はカードを見せなければいいと思う程度ですからな」

3人の笑い声を聞きながら、俺はこれ以上の情報を与える必要はないと判断した


与えられている部屋に向かいながら考える

騎士達が保護と称して捉えに向かうのは明後日の昼

それなら俺がその前に連れて逃げればいい

亜人の体力は人間よりはるかに高いというから、子供でも一緒に逃げることは出来るはずだ


「お疲れ様ですナオト様。お話は無事終わりましたか?」

「ああ。あとは陛下たちが動いてくれるらしい」

それだけ言ってベッドに寝転がる

「陛下と会うと緊張して疲れるもんだな。今日はもう休ませてもらう」

「承知しました。では私はこれで失礼させていただきます」

フォードはそう言って出て行った


俺が朝食を食べずに森に向かうのは珍しいことではない

明日もそうしたところでフォードはいつもの事だと思うだろう

ただ、その時点であの3人からは排除対象とされるだろうが、さっきの話からするとカードをどこかに捨ててしまえば追跡できなくなるということだ

その辺に捨てて誰かに見つけられても面倒だから海にでも投げ捨てよう

そこまで考えて、襲ってきた眠気に飲まれるように目を閉じた

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