第39話 闇の森で見かけたのは…(side:ナオト)
魔獣を討伐するごとに闇の森の瘴気が薄くなっていく
そのことに国民は喜び、感謝を俺に伝えにくる
「ナオト様!ありがとうございます」
王都に戻るなり周りを人に囲まれた
「王都から、この国から中々出れなかったのにようやく外に出られるようになりました」
「国の騎士は頼りにならねぇ。さすが勇者様だ」
口々にかけられる言葉に俺は一種の危うさを感じた
勇者として称えるのはいい
でも国をおとしめる言葉は危険だ
「その国の騎士が国を守ってくれてるから俺は自由に動ける。彼らあっての成果だよ」
「まぁ、勇者様はなんて謙虚なんでしょう」
「騎士なんて守ってやってるって常に上からだからな」
これ以上何も言わない方がよさそうだ
「とにかく、俺はこの後も用事があるから通してくれ」
逃げる様に人をかき分けてギルドに飛び込んだ
討伐数はギルドカードに記録されるため王都に戻ればまずギルドに顔を出す
勿論働きに応じた額がその場で支払われる
それとは別に国からも手当てが出てるが使うタイミングは無い
「ナオトさん凄い勢いですね」精算
職員がいつものように精算した報酬を持ってきた
それを以前購入した空間拡張機能の付いたポーチに入れる
本当なら空間魔法型のモノが欲しかったがこの世界では存在しないらしい
「この後はどうなさいますか?また依頼を受けられます?それとも宿泊の手続きをしましょうか?」
「今日は王宮に報告することがあるから戻るよ」
「そうですか。ではまたお待ちしてますね」
職員が少し心配そうに言う
討伐に出始めて2週間を過ぎた頃から、ジャッキーはやたらと褒美を取らせると持ち掛けて来るようになった
“そなたの望むことならなんでもしてくれる美女だ”
醜い歪んだ笑みを見せながらそう言われて吐き気を覚えた俺は頑なに断り続けた
流石に1週間拒否し続けるとようやく諦めたのか、その話を振ってくることは無くなってホッとしたのもつかの間、次は女が送られてくるようになった
部屋でくつろいでいると“いかにも”な女が立て続けに何人も訪ねて来た
クリスに女性の訪問客をすべて断る様に言って安心してたら、翌日にはメイドが増やされ、メイドがベッドの中でスタンバるようになった
片っ端から追い出し森で野営する日を増やしたのは言うまでもない
ギルドマスターに相談したらギルドの宿泊所を使うことを提案してくれた
王宮には鍛錬を兼ねて依頼を受けていると報告してある
それでも戻らざるを得ない日もあるのだと重くなる気持ちを何とか追いやって王宮に戻る
「お帰りなさいませ勇者様」
恭しく迎えられ落ち着かない気分で自分に与えられている部屋に向かった
「お帰りなさいませ。ナオト様」
「フォードか、すまないが陛下に謁見の許可を取ってもらえるか」
「どのような要件でしょうか」
「闇の森で気になることがあると」
「承知いたしました」
フォードは紅茶の準備だけ済ませて出て行った
ジャッキーの指示のもと、娼婦もどきと化したクリスはすでにこの部屋の出入りを禁止した
今俺についてるのはフォードだけだがフォードもどこまで信じていいかは分からない
だからこの部屋に俺の荷物は殆ど置いていない
置いてあるのはバスの運転手の制服や靴、帽子と手袋、運行日誌なんかが入ったカバンぐらいで、この世界では全く役に立たない物ばかりだ
フォードが最初に持ってきてくれた本や地図は返さなくてもいいと言われたから今はポーチに入れてある
ポーチを買うことを勧めてくれたのはフォードだから不審がられることもないだろう
「ナオト様、この後お時間を頂けるようですが」
「ありがとう。それで構わない」
フォードに案内されて通された部屋にはジャッキーと、右腕というガーナ、左腕と言うセリドがいた
「闇の森で気になることがあると聞いたが?」
「ウサギの獣人を見かけました」
「何?」
「亜人がいたというのか?あの森に?」
ジャッキーとセリドが目を見開いた
そう言えばこの世界では獣人ではなく亜人と言うのだったか…
「詳しく話してくれ」
2人とは対照的にガーナは全く表情を変えずに先を促してくる
「見かけたのは闇の森に入って30分くらいの場所。男性と女性が2人ずつ、子供が3人。2つの家族と言った感じだ」
「彼らは闇の森で暮らしているということですか?」
「いや、そんな感じには見えなかった。子ども達がやせ細っていたことを考えれば何処かから逃げて来たか、何かから逃れてきたと考える方が…」
「亜人の大半はグズリスにいる。他の国で友好的な国は少ないからな」
「しかしグズリスからフルジリアまでは1月はかかるだろう?手前の闇の森迄としても4週以上はかかる」
「闇の森は亜人と言えど簡単に通り抜けられる場所でもないだろうに」
3人はぼそぼそと相談するかのように話す
「とにかくだ、闇の森はナオト殿のお陰で大きな力を持つ魔獣が減った。かといってそのウサギ族の亜人を放っておくわけにもいかないでしょう」
「明日騎士を集めて準備を整えよ。今の状態であれば騎士でも対処可能であろう?明後日の昼より保護に迎え」
ジャッキーがテーブルを叩きながら言う
保護に向かうのに準備に1日かけるのか?
いつでも動けるのが騎士のはずだが…
俺は不信感が膨らんでいくのが分かった
「ナオト殿、重要な報告感謝する」
「最近は鍛錬で戻らない日も多いと聞く。今日くらいはゆっくり休んでくれたまえ」
俺が部屋を出る直前、ガーナはそう言って含み笑いを浮かべたが見なかったことにした
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