第36話 肉の調達

翌日、昨日と同じようにレオールのモフモフを堪能しながら目を覚ます

「お姉ちゃんくすぐったい」

耳の付け根をグリグリしてるとレオールが身をよじった

「ここ弱いのかな?」

「あぅ…」

更に強めにグリグリすると力が抜けたように抱き付いてきた

かなり弱いらしい

「ごめんごめん。気持ちよくてつい」

笑いながら抱きしめる肉体年齢15歳と言っても今のレオールは小学校の低学年程度の大きさだ

腕の中にスッポリ治まるそのサイズはかなり心地がいい


「今日は朝ごはんの後狩りに行こうか」

「お肉?」

「そう。お肉の調達。レオールの魔法の練習も兼ねてね」

「僕がやってもいい?」

「もちろんよ」

覚えたての魔法を使いたくてしょうがないのだろう

しかもそれで自分の大好きな肉が手に入るならなおさらだ


「僕アネラのお世話してくる」

勢いよく起き上がり部屋を飛び出していくのを見送り自分も身支度をしてキッチンに向かった

「あれ?こんな早くからどうしたのバッカス?」

「レオールが魔法を使えるようになったって聞いたから祝福を与えようと思ってな」

バッカスの与えられる特性は解体・呪詛・腐敗だ

「あれだけ肉食うなら解体は必要だろう?」

「…そうね」

レオールが自分で解体してくれるなら私も楽だ

バッカスはこの後用があるからと、レオールに祝福だけ授けて姿を消した


「良かったねレオール。バッカス解体の祝福授けてくれたよ」

「解体…肉さばくヤツ?」

『あら知ってるの?』

「父さんが解体の加護があるって言ってた。お姉ちゃんみたいに早くて上手だったよ?」

「そうだったんだ?レオールも同じくらい上手にできるかもしれないね」

「僕頑張る」

そう意気込むレオールとアネラと共に森に向かった


「いた!」

真っ先に気配を察知したレオールは言葉と共に魔力を練り上げていた

私が意識する前に放たれた魔法は的確に魔物を仕留めていた

『とんでもない才能ね』

アネラが感心したように言う

「本当…レオールあなた凄いわね?」

驚きながらもそういうとレオールは嬉しそうに笑う


レオールが仕留めたのはリーフオーク、木々の葉をその身に纏っている変わった豚だ

それも2体仕留められているのだから驚いても仕方ないと思う

「2体あるから一緒に1体ずつ解体しようか」

「うん」

私が以前バッカスに教えてもらったようにやって見せると、それをレオールは簡単にやってのける

元々父親の解体を見てたせいもあるんだろうけど、頑張る以前にこなしてしまうその適正には驚くしかない

「簡単に追い越されそうだわ」

レオールに出会ってまだ10日も立ってないのに、この子は教えた事はその日のうちにマスターしてしまう

それが喜ばしくもあり、どこか怖さも秘めているのはなぜだろう?

もしレオールがフルジリアの手中に落ちていたらと思うとゾッとした


「お姉ちゃん早く!」

次の獲物を求めて歩き出したレオールが拗ねたように言う

「ごめんごめん。次は何が捕れるかな?」

「僕鳥がいい」

『レオールは鶏肉が好きね~?』

「うん。あっさりしてるからいくらでも食べらるもん」

「そういう理由だったの?」

「うん?」

何か変なこと言った?とでも言いたそうな目を向けて来る

「まぁ、美味しく食べられるのが一番よね」

「うん!」

嬉しそうに頷くレオールに、余計なことを考えるのはやめた


『この分だとレオール一人で狩りに出ても全く問題なさそうね』

アネラがそう言ったのはレオールがこの森にいる魔物を一通り狩った後だった

「本当?じゃぁ僕一人で狩りに出てもいい?」

「…それはちょっと心配かな」

「何で?」

「狩りに関しては大丈夫でも森の事はまだ教えられてないことがいっぱいあるからね」

「うぅ…」

ショボンとするレオールに人化してるにも拘らずペタンと折りたたまれた耳が見える気がした


『じゃぁしばらくの間は私と一緒に行くのはどう?その間にミリアは刺繍とか趣味を楽しめばいいと思うの』

アネラの言葉には色んな意味が含まれてる気がした

町で手芸用品を見つけてから私は元々好きだった手芸を楽しむ時間を持っていた

でも手芸してる間はレオールにかまってあげられないから最近は全然手を付けていない

レオールが来てからは日の半分を狩りに当ててるし、ここの所はそれ以外の時間を燻製の時間に当てていた

魔法も狩りも気に入ったレオールがこのままじっとしてるはずもないし、レオールのスピードには私は元々ついていけない

そう考えればアネラにお願いするのは正解かもしれない


「そうね。じゃぁアネラにお願いしようかな」

『任せて』

「レオール、しばらくはアネラと一緒になら狩りをしてもいいわ。アネラがもう大丈夫だと判断したら、その後はレオール一人で狩りをしてもいい事にしましょう」

「本当?」

「本当よ。だからアネラがいいと言うまでは一人で行かないって約束できる?」

「うん。約束する」

「じゃぁそれで決まりね」

「やった!アネラありがとう!」

レオールはアネラに抱き付いた

私じゃなくていいって言われてるみたいでちょっと寂しいのは気のせいかしら?

そんなことを思う私をアネラが微笑ましい眼差しで見ていたことに私が気づくことは無かった

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