第29話 気になる動き

「ところで1つ気になったんだけど」

「何だ?」

「熊族に餌を撒いた国ってどこ?」

そんな国とは絶対関わりたくない

「…フルジリアだ」

「えー?!」

私が突然大きな声を出したせいかレオールが半獣姿になった

自分でも驚いてるのかこっちを見上げたまま固まってしまった

白い耳をピクピクさせながら白いふさふさの尻尾が下を向いたままユラユラと揺れている

「ヤダ…レオール可愛すぎ」

思わず抱き上げていた


「やっぱりミリアにはモフモフなのね」

『モフモフ…私もモフモフだもん…』

アネラが拗ねたように言う

「アネラのモフモフも最高よ?」

「安定のモフモフ好きだな」

「レオール、ミリアに怒られそうになったらその姿になればいい。怒られずに済むかもしれないぞ」

「ちょっとカシオン!変なこと吹き込まないで」

「事実なんだな?」

「そりゃ事実だろう」

パーシェとドイセンがぼそりと呟いた

否定できないところが悲しいわ


「と、とにかく話を戻すわ。さっき、フルジリアって言った?」

「言ったな」

「フルジリアって“勇者”を召喚した国よね?」

「そうだ」

何でそんな国がレオールを?

「おそらく神獣の血を引く存在を手中に置きたかったって辺りだろうな」

「その為にレオールの両親が犠牲になったってこと?」

何それ酷すぎる


「…勇者うんぬんよりもフルジリアに腹が立つんだけど」

「分からなくもないけど今は静観してた方がいいわね」

「どうやら予想外の動きもあるみたいだし」

「予想外の動き?」

「勇者の中の1人が単独行動をしてるわ」

「1人、運転手さん?確か津村直人って名前だった気がする」

あの運転手さんはいい人って言葉が似あう人だった

特にお年寄りや子供に親切だったしアナウンスだってマニュアル通りじゃなかったし…


「まぁ、機会があれば彼と話をしてみる価値はあるかもしれないわね」

「どういうこと?」

「彼、普通の勇者とは違うと思うわ。私たちは勇者に関わることが出来ないしステータスを見れないから断言することは出来ないんだけどね」

普通の勇者と違う?

「彼が動き出したのは召喚されて4日目からよ。スキルを与えられても、元々魔法になじみのない異世界人が、魔法を使いこなすまでに最低でも2月くらいはかかると言われてるの。でも彼はその時点で使いこなしてた」

「しかも魔物だろうと魔獣だろうと倒すことにためらいが一切ない。精神耐性があったとしてもちょっと異常だな」

私もためらいなかったけど…

「ミリアの場合は私たちが作った体だから特別なのよ」

なるほど

頷きながら腕の中のレオールの尻尾をなでる


「そう言えば勇者の身分証は冒険者ギルドで登録して取得するはずだよな?」

「確かそうだったと思うけど?」

「今んとこ遠い国の話だろうけどギルド内でなら噂話も拾えるかもしれないな」

「確かに。単独で動けるなら嫌でも話題には上がるだろうからな」

そういうものなのね


「何にしても当分関わることは無いでしょう」

「関わる頃にここがモフモフだらけになってる気がするのは俺だけか?」

「私もそう思う」

「俺も」

皆が思い思いに頷いた

「…じゃぁ期待に応えて頑張って集めてみようかな」

これは意趣返し

モフモフはアネラとレオールだけで充分すぎるものね

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