第25話 保護

『ちょっと気になる気配があるの』

「気になる気配?」

『亜人。でもすごく弱い』

この世界の種族は人間であるヒューマンと獣人である亜人、基本的に森の中で生活するエルフに分かれる

エルフはヒューマンとは比べ物にならない魔力を持ち、亜人はヒューマンとは比べ物にならない物理的な力を持つ

その亜人が弱いなんてことがあるんだろうか?

怪我してる?

それとも子供とか?

『そこまでは分からない。でも悪い感じはしないの』

つまり警戒する必要は無いってことね

アネラの危機察知は神々レベルだから信用度は滅茶苦茶高い


「場所はわかる?」

『こっち』

アネラは頷いて歩き出す

湖の周りを1/4ほど回った場所でアネラは止まった

その前方には大きな岩がある

『あの裏側から気配がするよ』

「じゃぁ行ってみるね」

私は岩の裏側に回り込んだ


「え…?」

そこにはまだ5歳くらいの男の子が倒れていた

頭と腹部から大量の血を流しているのが一目でわかる

「アネラ、あなたのいた泉にこの子を連れて行っていいか聞いてくれる?」

『わかった』

あの泉の水は欠損部分も回復する水だと言っていた

この子の傷は回復魔法ではきっと追い付かない


『ミリアと一緒ならいいって』

「ありがと。じゃぁ一緒に飛ぶよ」

男の子を抱き上げアネラの背に手を当てて魔法を発動する


次の瞬間ペガサスがくつろいでいた泉の側に立っていた

「ごめんね突然」

『構わないわ。早くその子を泉の中に』

「ありがとう」

促されるまま男の子を抱いたまま泉に入る

『一度潜った方が早いわ』

「分かった」

私は大きく息を吸い込むと男の子を抱いたまま一度湖に体を沈めた

少しして浮き上がる

「ぷは…」

止めてた呼吸を再開しながら男の子の様子を伺った

『後は泉の側で休ませておあげなさい』

「分かったわ」

火魔法と風魔法を合わせて作った『乾燥』を男の子ごとかけて泉の側に敷布を敷いた

その上に男の子を寝かせるとアネラも寄り添うように体を横たえた


男の子を気にかけながらもペガサスたちと会話を楽しむこと1時間

ようやく男の子が目を覚ました

「…?」

キョロキョロと視線だけで辺りを伺おうとする姿がちょっとかわいい

「気が付いた?」

「あぅ?」

「私はミリア。あなたの事は湖のほとりで見つけたの」

「ぼく…ぁ…ぼくは…!」

男の子は何かを思い出した途端震えだす

その様子が痛々しくて思わず抱きしめる

「ぅあ…っ…ひっ…」

しがみ付くように泣き出した男の子をただ抱きしめていた


「ごめ…なさぃ」

暫くして落ち着いてたのかそう言って体を離す

「気にしなくていいわ。お話できそう?」

そう尋ねると小さく頷いた


「お名前、教えてもらってもいい?」

「…レオール。フェンリルの血を引く狼族の亜人」

フェンリル、確か神獣よね?

その血を引いた亜人、だからアネラも気になったのかしら?


「じゃぁレオール、あなたの身に何があったかは覚えてる?」

「僕、父さんと母さんと一緒に逃げてた。色んな人から追いかけられて、ずっと逃げてた。でも魔道具の罠が…父さんが僕と母さんを庇って死ん…だ」

「!」

「必死で逃げて、でも行き場がなくなって捕まった。目の前で…母さんが磔にされて…たくさんの人に弓で…!僕も磔にされそうになって、必死に逃げた。でも相手が多すぎてどうすることも出来なくて…崖から落ちた」

傷だらけの体はそのせいなのだろう


『崖なら国境の山の上から落ちたのかも。山の麓は川が流れてるわ。その川は草原の湖に流れ込んでるから…といってもかなりの距離だけど…』

ちなみに国境と言っても地球の様に明確な国境線があるわけではない

自分たちが国とする中心部となる町を塀で囲み、その外周付近を国土と宣言してるだけなので、どの国にも属していない森や山の面積の方が広いんじゃないかと神の誰かが言っていた

イメージ的には1つの集落が国と言われてるって感じかもしれない

グズリスとソトニクスの間には家の裏から続く大きな深い森がある

森の麓には大きな湖があるからレオールは湖の南端から北端まで流れてきたのだろうというのがアネラの予想だった


「僕、どうしたらいい?父さんも母さんもいない。国にも帰りたくないよ…でも…」

再び泣き出したレオールを私も再び抱きしめる

こんな小さな子が目の前で両親を失って死を覚悟してきたなんて許せない

これ以上辛い目に合わせるなんてありえない

「レオール、私と一緒に来る?」

自分でも驚くほど自然にその言葉が出ていた

「私も血のつながった家族はいないの。今一緒に住んでるのはこのアネラだけよ。だから一緒に暮らそうか?」

「いい…の?」

不安げに尋ねるレオールに頷いて返す

安心したのか泣き続けたレオールはそのまま眠ってしまった


『もう大丈夫そうね』

「ありがとうみんな。これ、元々お土産のつもりだったんだけど皆で食べて」

食べ頃を収穫していた果物を積み上げる

『あら嬉しい。メルテルとポーラの魔力が宿ってるわ』

え?そうなの?

流石にそれは知らなかった

『またいつでもいらっしゃい』

楽し気な口調で見送られながらレオールとアネラと共に家に飛んだ

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