第12話 商会

「さぁ到着だ。メル、マリオ、お客さんを頼む」

「分かったわ」

「任せて」

奥さんのメルと息子さんのマリオはそう答えて私達を店の中に案内してくれた

因みにご主人はドルーというらしい

店に入る前にジュノーに言われて認識疎外を一旦解除した


「すごく大きい…」

「ドルー商会はこの国で一番大きな商会だ。確か他国にも支店があったか」

「ええ、おかげさまで色々な商品を扱わせていただいています」

カシオンの言葉にメルは頷いて返す

この国で一番大きな商会ならこの大きな店舗も納得だわ

「1階が雑貨と魔道具、2階に衣類が置いてあるよ」

「そうなの?ゆっくり見せてもらいたいわ」

そう言いながらもすでに店内を回り始めている


「この辺は冒険者が使うことが多い雑貨と魔道具だよ。あと魔石」

「なるほどな。その場で揃えられるようにしてるのか」

「みんな時間を掛けたくないって言うからこうなったって父さんが言ってた」

「確かに欲しいものが決ってるなら店内をウロウロするのは避けたいかも」

これだけ広いと余計そうなるだろう

「おっしゃる通りです。特に冒険者は依頼を受けに行く前に寄ることもあるので余計かしらね」

だから必需品と呼ばれる雑貨屋魔道具はまとめて陳列されることになったという

「こうしたことで冒険者になりたての方にも良かったみたいで、ギルドからも勧めてもらえるようになったんですよ」

「ふふ…ギルドとしても冒険者の生存率は高い方がいいものね」

ジュノーはとても楽しそうだ


「どうせなら“初心者セット”みたいにパックにしてあったら楽なのに。その使い方とかも入ってたらもっと助かるけど」

「え…と?」

「初心者って何が必要かもわからないことの方が多いでしょ?冒険者に限らず料理なんかでも同じことが言えるけど」

「料理でも?」

「ええ。料理を始めるなら包丁とまな板、鍋は必須だし、ちょっと小さめの調味料のセットなんかがあれば最初の出費を抑えることが出来るもの。こっちは試してみるためのお試しパックみたいなものになるんだろうけど」

「「!」」

メルとマリオが固まった

私何か変なこと言った?

初心者キットとかスターターパックとか普通にあったし…

「ミリア、その案使わせてもらってもいいかしら?勿論相応の対価はお支払いするわ」

「え?」

どういうこと?

私は意味が分からずジュノーとカシオンを見る

「それはそのパックにするシステムを登録するということであってるか?」

「ええ。勿論です」

「ならミリア、店を見たあと商業ギルドに行きましょう。メルも一緒に来てもらえる?」

「喜んで」

何か話はまとまったらしい

詳しいことは後で聞けばいいかな

そう思いながらジュノーを見ると頷かれた

よくわからないけど2人に任せておけば問題ないだろう


「これは何?」

折りたたまれた布のようなものが妙に気になった

「敷布だよ。冒険者が泊まりでの依頼を受ける時にテントの中に敷くやつ。テント自体も防水効果は有るけど、それを敷けば下がゴツゴツした場所でも体が痛くないんだ」

「へぇ…これ1枚買っておこうかな」

「ミリアは冒険者になるのか?」

「違うよ。ゴツゴツした場所でも体が痛くないならピクニックでも使えそうだから。欲を言えばもう少しお洒落な方がいいけど」

メルの顔が輝いた

「メル、後で話をしましょう」

ジュノーがそう言っているのに気づきもしないまま私は商品を選び続けた


「1階だけでも結構な量だな」

私が買おうとしたものは全てカシオンが持ってくれている

それが知らない間に小山になっていた

「一旦こちらで預かりましょうか?」

「頼む」

メルとマリオが手分けしてカウンターの方に持って行く間に私たちは先に2階に上がることにした


「次は服ね」

「ジュノー、何か張り切ってる?」

「勿論。ミリアに似合う服や小物を沢山探しましょうね」

「ミリア諦めろ。こいつはコーディネートし出したら止まらない」

「…そう」

カシオンの言葉を身を持って理解するまではすぐだった

次々と渡される服を試着するのを繰り返し、ジュノーの気がすんだ頃には20セット近くの服や小物が積まれていた

この年で着せ替え人形の気分を味わうことになるとは思わなかったわ


「流石に多すぎない?」

「大丈夫。年中着れるから」

そういえば四季が無いんだっけ

年中同じ気候に気温

ちょっと寂しい気もするけどそういう世界だから仕方がない


「これ全てで頼む」

カシオンが雑貨の横に衣類を積んでそう言った

この世界の通貨単位はダラーで1ダラー、10ダラー、100ダラー、1,000ダラー、10,000ダラーの紙幣がある

一般人の平均月収は150,000ダラー

私はこの世界に来た時点で5,000万ダラーを貰ってる

これは地球で貯めてた貯金や両親の残してくれたお金が5,000万円くらいだったから

と言っても1ダラー=1円なんて単純な相場では無いんだけど

という状況の中で本日のお買い上げ金額200,000ダラー弱

「ミリア、マジックバッグに入れとけ」

「はーい」

アイテムボックスに入れないのはこの世界で使える人が少ないから

出かける前にマジックバッグは肩からかけていたりする

最初はリュックみたいな形だったけど、パーシェに聞きながら自分の好みのショルダーバッグの形に変えたものだ

夢中になりすぎて気づいたら明け方だったけどね…

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