8・映像
俺たちは相変わらず、同じことを繰り返していた。
たまに二人のうち一人が食事に付き合ってくれたりするが、他はほとんど二人きりで施設の中を歩き回っているだけだ。
15回目の食事の時、ノルが一緒にきてくれたので、
退屈すぎて、何か読むものがないかと尋ねると驚いた顔をされた。
「君らは文字を読むのかい?」
「普通に文字を使っている。ノルは同じ言葉を喋っているから、同じ文字を持っているのだろう?」
するとノルはちょっと笑って
「いや僕らは・・・文字はあまり使わないのだよ。映像やイメージが多いから」
「映像?」
「ああ、こういうものさ」
と言ってノルがテーブルの食器をどけてそこを撫でると、そこに外の風景が映っていた。川の流れと木々が風にそよぐ風景だ。
鏡のようになっているのか?と思い上を見たがそこは天井しかない。
テーブルの下を覗き込んでみたが、そこにも何もない。
薄いテーブルの板の間に、その風景があるようにしか見えない。しかも景色の見え方が次々と移り変わっていき、砂の大地にまで変化していく。
俺たちが住んでいる砂漠のような広い砂地が見えてきた。
「この映像は、ナバラからのものだよ」
「ナバラ?この薄いとこに入っているのか?」
「違う違う。なんていうか、ナバラが見た景色がここに見えているのだよ」
「どうやって?」
ミミリュが興味深そうに聞くと、ノルは困ったような顔をして。
「そうだな、君らの知っているものといえば、鏡がものを写すのは知っているだろう?」
「化粧をする時は使っているけど、あれは前にあるものしか映らない」
とミミリュが答えると
「でも、それをこうやって斜めにして2枚持って遊んだことはないかい?すると、斜めにした先にある景色がこの鏡に映って見えるだろう?」
とノルはどこからともなく四角い持ち手がついた手鏡を出してきて俺たちに見せる。
確かに、斜めにして向かい合わせにすると普通見えない向こうの景色が見えていた。こういう遊びはしたことなかったので俺が食いつくように見ていると、横からクスクスいう声が聞こえて来る。
「なんだよミミリュ」
「だって、男なのに鏡にかじりついているなんて、集落では見られないでしょ」
「こうやって鏡が使えることが面白いんだよ」
すると、ノルが微笑みながら
「君たちの集落では男は鏡を使わないのかい?」
「うん、男が長い間鏡の前にいたら男の精力が奪われていって子孫を残せないって言われているもの」
とミミリュ。
ノルはそれを聞いて面白そうに笑って、
「今回は問題ないからね。ここは集落じゃないし。
そして、このテーブルに映っている映像だが、こんな感じで鏡をたくさん反射させているような仕組みでナバルの見えたものをここに映し出しているというわけだよ」
テーブルには砂漠の上を飛ぶナバルから見たであろう風景が続いている。
それにすっかり意識を向けているとノルが。
「はい、これ渡すから自分で見てみるといい」
そう言ってどこからか四角い箱のようなものを取り出し、手渡してきた。
大きさは俺の両手に収まるくらい。表面に四角くて平たい突起が並んでいて、押すとそれが凹む。
「これは、スイッチ。画面を見たいときにこの丸い印がある方を押す。消すときはこっちの四角の印のあるものを押す。これでいつでも君が好きなときにこれをみることができる。文字はないけど、これで時間を潰すことはできるのじゃないかな?」
言われた通りに押してみると、テーブルの映像は消え。もう一度押すと映った。
「これは、部屋にある壁にも同じものがあるから。部屋に帰ってからまた試してみるといい」
「これは一つしかないのか?ミミリュの部屋にもあるといいだろう」
「残念ながら、一つしかないから。順番に使うようにするか、一緒にこの食堂でみるようにするといい」
そう言って、ノルは仕事があるからと去っていった。
俺たちはそのままテーブルに映る景色を眺めて楽しむことにした。
メガラニカ戦記 スコ・トサマ @BAJA
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