6・神話

ここは不思議なところだった。

眠る時と食事の時は部屋に戻るように指示された以外は自由に行動していいと言われていたので、ミミリュとともに白いこの場所を少し探検してみることにした。

ノルとシアムと名乗った大きな人たちは足が俺たちと逆に曲がっていて、不思議な感じがする。蹄はあるかどうか、脚に履いたもので隠れているのでわからない。

二人は何かの病気になって、この施設に隔離されているのではないかと思い聞いてみたが、生まれつきだということだった。


彼らと同じ病になって俺の足もああなるのかと思って心配したが。


俺たちの集落には空を飛ぶものと、四つ足で駆けるもの達が稀に現れては興味深かそうに俺たちを見て去っていくことがあったが。それ以外の種族は初めて見た気がする。


そういえば、種族に伝わる昔話にこういう人たちが出ていたことを思い出した。

長老達がたまに聞かせてくれていた、俺たちが昔いた楽園の話。



昔、俺たちピットゥの先祖はもっとたくさんの仲間達とともに暮らしていたという。

それも、今はたまにしか遭遇しない姿がぜんぶ違う仲間達と。

大地を走る種族達、空を舞う種族、水の中で生活する種族など様々に居たという。

神が中央にいて、その周りを8組の使徒様が囲み、使徒様たちが俺たちを抽出していったという。

それぞれの使徒様たちはご自分の抽出した存在を愛し、仲間たちは皆平和に過ごし、神と使徒様たちに見守られながら楽しく過ごしていたという。


あるとき、ひと組の使徒様が「美しき支配者」羽を持った大きなひとを作り出した。

それは俺たち抽出さえれたものたちを神の意図に導くために造られたという。


ピットゥは羽の人の言うことを聞き、神の期待に添えるよう、皆で努力したのだが羽のある人達は我々の先祖を認めてはくれなかった。

羽のある人は使徒様と同じ細く長い足をしていた。

われわれの頑丈な蹄のある足とも違い、見た目が違うから羽のある人はピットゥを受け入れてくれなかった。


美しき支配者を生み出した使徒様は同じ足を持つ存在を抽出し地上へと放ち始める。それは手を使い知識を使い、見えない力を使い。

石でできた街を作り、川をせき止め、森を調節し。

ピットゥのできない仕事をたくさんやり始めた。だから、羽のある人は彼らを可愛がっていた。


それに、羽がない以外は同じ形、同じ姿をしているので、羽のある人達はすっかり同じ足を持つ存在を気に入り、彼らだけが生活するために広い土地を得ようとし始めた。

そのやり方を受け入れられなかった他の7組の使徒様たちはそのひと組の使徒様たちと違う存在を生み出し始めていた。

美しき支配者に負けない強い存在だ。俺たちの祖先よりも強く頭の良い存在たち


美しき支配者を生み出したひと組の使徒様は、神のそばに居続けた。

美しき支配者は、使徒様は、彼らは同じ足を持つ存在だけを愛し始めていたのだった。

違う足を持つもの達を嫌い、徹底的に追い払っていった。

逃げられなかった者たちのそのほとんどは殺されてしまったという。


なぜなら、移動しようにも俺たちの先祖には、海を超える技を持っているものがいなかったからだ。

ほとんどのものが神のある場所から消されていくなかで、彼らは他の使徒様たちも神の側から追い出してしまった。

七組の使徒様は腹を立てこの星から出ていった。真なる神とのつながりを求めるために星の海へと飛び出していったのだ。


だから、誰も助けてくれなかった。

神も、使徒様も、誰も先祖たちを助けてくれなかった。

我々の先祖全てが消え失せようとしたとき、宇宙に去っていった使徒のなかで、リリンとララルが我々を哀れに思い戻ってきて先祖を助け、この砂の他大地へと連れてきた。


そして、子を産み育て。

俺たちピットゥは栄えていった。


だが、羽を持つ大きな人、美しき支配者はまだピットゥを許してはくれない。

足が違うから、ピットゥを憎んでいるという。

最初の頃、羽のある人と出会ったピットゥの先祖は、羽のある人の仲間を蹄で蹴ったのだ。

羽のある人は、皆大きくても触れずにものを動かす不思議な技を持っていたから、ピットゥをからかい、足の曲がり具合をバカにしていたりした。それに怒りピットゥの一人が羽のある人の一人を蹴った。すると当たりどころが悪かったらしく羽のある人の一人が死んだ。

羽のある人は使徒により抽出された者たちを支配するために生み出された存在で、使徒に愛されていた。

それで羽のある人はピットゥに仕返しをするためにバーサクを生み出し今でも砂漠を見張っている。

バーサクは羽のある人の怒りであり、抵抗してはいけない。

先祖が起こした過ちを許されるまで、我々は我慢しないといけない。

あれに抵抗したら、また羽のある人の怒りを買い。今度は太陽の炎がわれわれを焼き尽くしていくだろう。



という話だった。

細かいところは思い出せないが、羽のある人によって俺たちの命が危機にあっているということで、話を聞いたときは怒りを覚えたものだったが。

先祖のした過ちが未だに俺たちを縛っている、ということも何か違和感を感じているところはある。


機動歩兵は羽のある人の怒り。それに抵抗したら一族が滅ぶ。


俺は今回機動歩兵を攻撃した。


そして、俺たちとは違う足をもった人と出会った。


もしかして、羽のある人の仲間なのか?


そう思い慎重に相手の行動を見ていったが怪我を治してくれたり、食事を持ってきてくれたり。

安全な寝床を用意してくれたりと悪い扱いは受けていない。


横になって眠るという習慣が慣れてないものだが、寝床のクッションが柔らかく体的には疲れなくぐっすり眠れる。


ミミリュのほうはしばらく片目が使えなかったけど、数日してから両目が開くようになっていた。

しばらくは包帯のようなもので片目から顔の半分が覆われていたからだ。

話に聞くと、かなりの怪我だったので少し大げさにカバーをしているということだったが。


足が俺たちと違う彼らは、夜寝るときにやってくるだけで。他は一つの部屋に入って何かしているように見える。他には誰も居ないみたいで、二人だけでいつも過ごしているようだ。


一番広い部屋に入ると、そこは水筒や楽器に使う外皮の硬い植物の内側のようなまるい形をしている。

大きさは機動歩兵が数機入っても十分なくらい広い。

これくらいの広さの家は固定集落にある石作の集会場でしか見たことはない。移動集落にはこういう広い場所は必要ないからだ。


丸い氷のような箱の中に入って何かしているのだが、俺には何をしているのか全くわからない。二人で何か手を動かしたりしているが、意味がわからないのだ。


「やぁ、何か用かい?」


ノルのほうが俺たちに気づいて声をかけてきた。

ミミリュがまだ目がちゃんと見えてないようなので、俺は手を引きながら散歩をしている。

その二人の姿を見て一瞬微笑んで。



「どうだい?ここの生活に慣れてきたかな」


と言う。慣れてきたというよりは


「食事と寝るだけなので何もすることがない」


と答えると、


シアムも氷の箱から降りてきて、


「今は二人とも怪我を治す時期だから。それまでは退屈な時間を過ごしてもらうことになる」と言ってくる。



「どれくらいで治る?」


「彼女はあと2週間・・・君達の基準でいうなら2の7タリな日数くらいかな」


「そんなにかかるのか」


「君も見た目は治っているようにみえるが、中の骨はまだ仮にしか繋がってないから強い動きはまだ無理だ」


「治ったら集落に戻してもらえるのか?」


「それはそのときに相談するとしよう。少し私は外に出るから、あとはノルに任せてある。何かあるときは遠慮なくノルに言ってくれ」


そう言って、シアムは俺の肩を叩いで部屋の外へと出て行った。


「では、君達お腹がすいてないか?食事でもしようか」


とノルは俺たちを誘い、別の部屋へと移動していく。

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