五・抽出を行いし者と

彼の左腕は組織が肩のところからちぎれ飛ぶくらいに傷みが激しかったが、基本的な組織が残っていたので治療は何も問題はなかった。

骨を継いで、組織を戻して。そして元の情報を転写すると何事もないように元に戻った。そのまま部屋の中央にある治療台の上に乗せて、肉体の休息を優先させた。栄養的に不足しているものがあれば添加しようかとも思ったが、後で自分で摂取したほうが無理がなさそうなので治療までを行い意識の一部を部屋につないだままにしておく。これで、何かあっても常に部屋を観察できる。


もう一人のほうの情報を聞くために、シアムにつなぐ。


「こっちはすぐに終わった。そっちはどう?」


すぐに情報が頭に入ってくる。

こちらの情報と交換するように頭に入ってきたのは子孫を残すがわの個体で、その能力の部分には影響はないが、攻撃を受けた際に頭蓋骨や脳の一部が欠損してしまいこのままでは生命活動が送れなくなってしまうということだった。


そこで、頭蓋骨の自然治癒と補修。欠損した組織の回復などを目的とした治療を行うことになり、それなりに時間が必要だという結論になっていた。


ということは、この二体はしばらくここで観察をしていくことになるのか。


常にシアムと二人きりというのも飽きているわけではないのだが、このように全く別の個体が我々のエリアにやってきて存在しているのも興味深いところがある。


今は情報隔離を行い我々の領域と常時リンクしないように部屋を分け、そこにいてもらうようにしているが。


彼らと接触することで、我々にも何か変化が生まれてくるのだろうか。


あの、アトランティス人を生み出した彼らのように。



「治療は終わった。それぞれの個体に接触してみるか?」


シアムからの連絡があった。

私は返事をし、一部情報管理を緩め、起き上がるように情報を送った。彼は自分の意図で起き上がっているのだと思っているだろう。

ここで違和感を感じさせてしまうと今後の接触が台無しになってしまう可能性もある。


なるべく自分で行動するまで、様子を見ておくことにする。

すると、彼はからだを起こし、初めて見る環境に戸惑っているようにおそるおそる行動していた。


彼らの生態情報をモニターすると、ああいう横になる寝床は利用してないということがわかり、それがあの行動にでているのかと納得した。


彼の思考を読み取ることはせず、行動を見て情報を得ていくことにした。



しばらくして、パターンをいくつか回収することができた。

大体は恐れの感情が支配する行動パターンであったが、一部好奇心を強く出しているパターンもあった。


今まで見てきたなかでは確かに貴重かもしれない。


そう思っているとシアムから連絡が入った


「こちらのサンプルは目覚めてすぐに恐怖に囚われた、すぐに私が対応する。そっちはどうだい?」


「こちらの個体は好奇心を持って行動している。もうしばらく見ておきたい」


「そうか、では、こちらは安心させるようにこの個体に対して対応しているから、ノルはそっちの個体の様子を見て、接触を試みてくれ」


「わかった。接触したあとはどうする?」


「二人を引き合わせることも必要だろう。そのタイミングはそちらにまかせる。私はいっときこの個体につきっきりになりそうだ」


「情報共有はするのかい?」


「彼らとはできない。彼らは情報粒子を使わないのだから」


「なるほど、では、こちらからの意図を伝えるくらいしかできないのか」


「共有は無理だが、コミュニケーションによってそれを得ていく方法はある」


「面倒なやり方だな。一つの共通認識を得るのに何時間かかるのか」


「それが私たちが抽出した存在との関わり方だ。では、私は行くよ」


「ああ、こちらのタイミングがそろったら声をかける」


と言って、私はこの個体いる部屋へと足を踏み入れた。

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