三・ノル と シアム

目を開くと、そこは見たことのない場所だった。

天井は白っぽく光るものが広がっているだけで、木の感じも土の壁の感じもない。

硬く白い石のようなものでできた丸い形の部屋に寝かされているようだった。


飛び起きると、少し高い台のようなものの上に寝かされているのに気づく。

これは、寝る場所にしては柔らかすぎるが。

いつもは木の繊維で編んだハンモックで寝ているため、このような柔らかい塊の上に寝るというのが落ち着かない。

昔別の種族のところではこのようなものを使うと聞いたことがあるが。


手で押すと凹むがじんわりと形は戻ってくる。

ハッとして肩をみると、怪我が治っていた。


肩を完全に銃弾が貫き、骨を砕いて半分肉も削ぐほどの怪我だったのだが。細い赤い線が幾つか走っているだけで、肩は元どおりになっている。

それに、知らない間に変な服も着させられているようだった。


目の粗い繊維と動物の皮で作ったいつもの服ではなく、細い繊維で編み上げられた柔らかく、ゆったりとした形をしている。

こんな服も初めてみた。

色も若葉のような鮮やかな色をしている。一体どうやって染めているのだろうか。


床の上は氷の色をしていたので冷たいかと思いおそるおそる降り立ってみると。ほんのり暖かく冷たくはない。石のような柔らかく分厚い皮の敷物のような。不思議な感覚がある。


周りを見渡しても何もない。

どうやら俺一人がこの部屋にいるようだった。


どこだここ?


そこで、さっき一緒にいた女のことを思い出した

ミミリュと言ったが、あれはどうしているのだろうか?さっきは頭を銃弾がかすめていたようだったが。



そもそも、なんで俺はこんなところにいるのだ?


どこかに出口がないか探し始めた時、声が聞こえてきた


『おはよう、気分はどうだい?』


どこから聞こえてくるのかわからない。部屋全体に声が聞こえてきるのだ。

どこにいる?誰だ?

身構えて壁部屋の中央、さっきの寝床のとこに戻ると、さっと目の前の壁が開いた。

扉のようなものが見えずに、壁がいきなり開いたようにみえた。


「やあ、すまない。驚かせたようで」


白い全身を覆う服をきていて、上着はマントのように巻きつけているように見える。

身長は俺より高いくらいだが見た目が集落の男達よりも細く女のようにも見えてしまう。

そいつが笑いながらそこに立っていた。


「おい、ここはどこだ?なんでここに連れてきた?」


「君達は救われてきたのだよ。怪我して倒れてたからね。ナバルが連れてきたんだ」


「ナバル?なぜ俺を連れてきたんだ」


「珍しかったからだろう。機動歩兵に戦いを挑む個体は初めて見たよ」


「お前ら、あのナバルとかを操っている親玉か!」


「操ってはいない。彼らは勝手に行動しているだけだ」


「しかし、ナバルが俺たちを連れてきたと言ったろう!」


「私たちのところに、サンプルをたまに持ってくるのだ。それが君達だったと、そういうことだ」


「サンプル?」


「まぁいい。君と彼女は怪我してたから我々が治療した。それだけのことだ」


「ミミリュも無事なのか?」


「君よりは無事じゃなかったが、いまは意識も回復しているようだ。会いにいくかい?」


男はそう言って耳元に手を当てて何言か言葉をつぶやいて。そして


「では、こちらへきてごらん」


と言って微笑んだ。


男は近づくと結構でかく、俺の頭一つは上に出ている。俺も集落では大きい方ないので、これほどの大男を見たのは初めてかもしれない。


白い壁のような背中を見ながら狭い通路を移動していく。さっきの部屋の中みたいな材質でできているようで、木や土は相変わらず見当たらない。


男が立ち止まる。

すると、壁が開き入り口が姿を現した。中に入ると、そこにはもう一人の白い服をきた男が真ん中にあるミミリュのところに立っていた。ミミリュはまだ体を起こせない状態で寝床に作られた背もたれに寄りかかり、そのもう一人の白い男と会話をしている。


俺が近づくと気づいたようで、俺に顔を向けてきた。

しかし、顔の半分は何か布のようなもので覆われているようで、俺よりも重症のように見えたが

お互い生きていることを喜び、そばに駆け寄ると


「ちょうどダラルの事を聞いていたとこだった。無事だったと聞いてはいたが。本当に何もないように治っているのね」


ミミリュは驚いたように俺の腕を見て触っている。


「ミミリュはどうなんだ?」


「私は頭の骨までやられてたみたいで、その修復に少し時間がかかるのだそう」


と言って右側の頭に巻かれている布を触っている。


「それにしても、ここはどこなんだ?」


「私もわからない。さっきから白い人と話はしていたのだけど」


二人で顔を見合わせていると


「ここはステーション。君達を監視しているところだ」


と俺の部屋にいた男が言う。

ミミリュの部屋にいた男のほうが背が高く、見上げるほどだが、体格が細いので女のようにも見えてしまう。


俺の部屋にいたほうが

「私はノル」


ミミリュの部屋にいたほうが

「私はシアム」


と名乗った。

しかし、ここは俺たちを監視しているところ?

余計にわけがわからない。



俺たちは集落で生まれ、そこで親に育てられた。

同じ集落で生まれても、俺たち家族は移動生活を行う側だった。集落を安定させていく側のものもいる。

それに、集落が浄化されるたびに、俺もすぐに移動生活のほうに連れて行かれたので生まれた集落の姿も、そこにいる人の姿も見た記憶はない。


ミミリュも同じ集落の生まれであのようなところにいたのだから、移動生活をする家族だったようだが。


移動生活を行う集団は家族、肉親で集まり移動を行う。

一度に30人~50人くらいの集団になり、集落を出てからはほとんど戻る事はない。子を産む事になった母親だけが集落へと入り、そこで出産し歩けるようになるまで育てていく。俺もミミリュも、そうやって親の生まれた集落に集まっていた時期があったのだ。

あとは、交易をするために他の集落との間を行き来する役割を持った者以外は生まれた元に戻る事はない。


機動歩兵というのは突如現れて前にあるものを破壊しながら進んで行く。

その道筋に俺たちのように移動集落を作っていると容赦なく破壊されていくのだ。


移動側の存在はいつもこの機動歩兵に恐れながら過ごしている。

機動歩兵のこない場所は険しい山の上や湖の真ん中などではあるが、そこではこちらも不便なのでなるべくこない事を祈りつつ、組み立て式の家をを作り移動集落を作りながら生活をしているのだ。

定期的に移動するのもこの機動歩兵からの攻撃を避ける為。広い大地のなかであれば、あれが来るのを先に察知できるため。大抵は見通しの良い場所に移動集落を構える。


しかし、今回は運悪く俺たちが捕まってしまった。妹も、弟も、それで命を落とした。これまでに機動歩兵が来たことのない土地を選んでいたのにだ。



そのような移動生活のことなどをこの男たちは知っているようで、色々と話をしてくる。俺のいた山の地方での生活、ミミリュのいた草原の生活。

この男たちは監視と言っているが、何から何を監視しているのか。


それについては何も男たちは答えない。

ただ俺たち二人が、ここで不自由なく暮らしていくために手を貸してくれるという事を教えてくれた。


ミミリュのほうが頭の骨と丸ごと失った組織の再生に時間がかかるとかで、それが終わるまではここに居る事になりそうだった。


新しい服をもらったが、それが男たちのような服で。頭と手が筒状になったところに通していく形になっていて、初めて見るものだった。その上に白い外套のようなものを羽織るようになっている。腕のところは筒状になっていて、服と同じように手を通さないといけないらしい。


俺たちの服は革と麻でできた腰巻と、肩から胸元を守る胸当てと、あとは日差しを遮るための外套を羽織るだけで。このように密着する服は着ない。

女も革の胸当てに腰巻と、ほとんど同じ格好なのだから。


食事をし、俺たちはすぐに元の部屋に戻されまた眠ることを要請された。

ここの食事もまた変わっていた。

元の形がわからないものがたくさん出てきたのだ。

名前を聞いてもよく分からないものばかりだったが味は悪くない。

魚に肉、根もの野菜のような味と、いろいろな材料が使ってあるのがわかるが、その味は食べたことのないものだ。


白い人たちと生活してた時の話をして、怪我の様子を確認され。

そのあとは俺もミミリュも別々の部屋に戻り横になる。この生暖かい柔らかい寝床が最初は慣れないものだったが慣れてくるととても心地良い。

横になってみるとすぐに意識を失っていった。

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