2・ミミリュ


 機動歩兵を追いかけていく道中、なぜ一緒にくるのか女に話を聞いてみた。


「私の目の前でお母さんとおばあちゃんが殺されたわ。機動歩兵は避けられたのに。後から来たナバラの下敷きになって。私の目の前ですり潰されていったのよ」


俺も自分のことを話す。


「俺は機動歩兵に妹と弟を殺され、住んでいた集落の全員を殺された」


「じゃあ、あなたは機動歩兵バーサクを私はナバラを殺ればいいのね」


「なんでそうなる?」


「あなたの大切な人を殺したのは機動歩兵。私の大切な人を殺したのはナバラ。だからよ」


「その振動サイリュでか?届かんだろう」


「だから、あなたの発砲筒貸しなさいよ」


「なんでお前に貸さないといけない?」


「草地の民は分け与えながら生きて行くものだからよ」


「そう言われると、そうかもしれんな。このジョッグもお前の集落から持ってきたものだし」


「あんた名前は?」


「人に聞く前に自分から、だろう」


「私はミミリュ。サジェク村の出身よ」


「俺はダラル。ほう、俺もサジェク村の出身だ」


「同郷の生まれだったのか、それは奇遇ね」


俺はてサジェク村から出発する山をめぐる移動集落で育ってきた話をする。その後いくつかの集落を移動したことも。

その辺りの話をすると、どうやら同じ時期にミミリュも祖父母のいる移動集落に入り草原の地域を回っていたそうだ。

幼い頃、お互い移動集落に移る前はもしかしたら出会っていたかもしれないな、


などと話している間に、砂塵が近づいてくるのが見える。


機動歩兵は集落や人間をすり潰す時は重力振を外部へと発生させるので濃い砂煙が舞う。

移動中は砂煙を巻き上げないので、また集落が消されているところなのか。


急いでその砂煙のところへとジョッグを走らせた。

俺とミミリュは起動歩兵の早さなどについて情報を交換していく。

起動歩兵の進むスピードは3サグジェ(時速でいうと120キロくらい)くらいで、殲滅した後ナバラはその後2ターメン(1時間後くらいの感覚)してから降りてくるという状況のようだった。


ということは、2ターメン以内に起動歩兵をまず殲滅しなければいけないらしい。


ナバラと起動歩兵を同時に相手にすることは無理だろう。


起動歩兵に追いついてきた。しかし、常に3サグジェ以上で走っているので、すぐに攻撃を仕掛けるのは難しい。


ミミリュに発砲筒が使えるかどうか聞くと、農作業の時に害獣追いで使っていたから大丈夫ということだった。


「俺があいつらに並ぶから、一番前にいるやつを発砲筒でコケさせてくれ」


「壊さないでいいの?」


「これで壊せないことはわかっている。俺の親父は起動歩兵にこれを打ち込んだことがあったが、全くあの外側を打ち抜くことができなかった」


「じゃあどうやってコケさせる?あいつらに効かないなら難しいじゃない」


「足元を狙えばいい。少し浮いて走っている足元に大きく急な段差を作ると転ぶ、それを行った人を見たことがある」


ただ、その人はすぐに機動歩兵の機銃でやられて亡くなってしまったが。


「わかったわ。とりあえず足を封じて動きを止めることを優先させるのね」


「殲滅はその先だ」


俺はジョッグで起動歩兵たちの近くに並走する。

機動歩兵は見上げるほどの巨木と同じくらいの高さがあり、その姿は丸い筒のよう、そこに短い足と羽のような手が両側についている。

重力を操作することにより少し宙に浮いた状態なので、足も羽もバランスを取るために動いているだけで実際にそれで歩いているわけではない。

筒の上には丸い目がついており、それらは皆前だけを向いていた。

太陽の光を反射して、ギラギラと光る表面には砂の粒一つ付いてなく微かにカゲロウのようなものが立ち上がっているようにみえる。


起動歩兵は前にあるものは徹底的に破壊し殺戮していくのだが、なぜか横に対してはあまり反応をしてこない。近くに寄ると攻撃をされるが遠距離からの、発砲筒を打ち込むなら大丈夫だろう。


「いいか?」


「準備できたわ」


ミミリュは両肩に4本の発砲筒を乗せ、いつでも打てるようにしていた。

照準器を操作して先頭を狙っている。


「少しスピード落として」


ミミリュの言葉でアクセルを少し絞ると、同時に背後でポンっと大きな音が響く。

発砲筒から弾が発射されたのだ。

空気の圧力で押し出された後、少し距離を置いて火薬に火がつき弾頭が目標へと飛んでいく。


打ち出した後も照準器から視線による操作で狙った場所に誘導ができる。

一発目は先頭の足元でうまく爆発した。大量の砂煙が上がる。

先頭の起動歩兵が体を斜めにしているのが見えた。爆発による地面のへこみに足を取られたようだ。

すぐにミミリュは2発目、3発目と続けて撃ち、先頭の起動歩兵のバランスを崩すようにしていった。


しかし、奴らはすぐに体制を戻していく。

ほんの少し進撃速度が落ちただけで、何もダメージがないようだった。


「くそ!発煙筒じゃやっぱりだめか!」


「ダラル、あいつの足元にジョッグ寄せて、私がこれであいつらの足を切るわ」


「ま、正気か?あの前に行くとすり身になるぞ」


「あいつらは前には攻撃しているが、足元はまったく警戒してない。接近すれば攻撃は可能よ」


「腕の機銃で撃たれたらどうする?」


機動歩兵は基本的にはすりつぶしながた移動することで処理を行うが、本体を守るために破壊する意志を持つものが近づくと銃撃されることがある。

機銃で撃たれて死ぬ者の姿も何度か見たことがあるのだ。

そうなれば目的を果たすことができない。


「その時はこれで」


と言って外套をめくって見せてくれたのは、体に巻きつけている発砲筒の弾頭だった。形のいい腰のくびれに不釣合いな鉄の塊が6っこほど並んでいる。


「私がやられたら、まるごと吹っ飛ぶから少しは影響あるでしょ」


「その時は俺も吹っ飛ぶのか」


「運が悪ければね」


そう言って楽しそうに笑う。

どうせ死ぬ運命なら、こいつらに一矢報いたいと思う。発砲筒の弾薬と推進剤、それにジョッグの圧縮重力発生器が崩壊すれば、かなりの重力振動を起こすことは可能だろう。

もとより捨て身なのだから問題ない。


「爆破する時はジョッグの発生装置も壊すようにしてくれ」


「それは心得てるわ」


二人で顔を見合わせ、ニヤリと笑う。

同じことを考えていたのだろう。ということは、俺も巻き込んで当然と思っているのだろうが、特に嫌な気はしない。


俺はスロットルを開け、一気に加速し起動歩兵の足元へと滑り込む。

全体は20マニルくらいあるが足は4マニルほどしかない。

その懐に飛び込み、ミミリュが勢い良く振動サイリュを叩き込む。足元は確かに機銃の攻撃がこないが、重力振と足で踏まれればたまったものではない。

サイリュの振動が機動歩兵のフィールドを中和し、足を切り込む。


起動歩兵は体格のわりには足が細いせいか、一撃で足がもろく折れてしまった。

轟音を立て横に倒れる。すると隣を巻きこみ、連鎖的に多くの歩兵が倒れてしまった。


しかし、俺たちは機動歩兵の機銃での攻撃を避けるため一旦距離を置き並走する。

真横から飛び込んで、振動サイリュを振り回しそのまま反対に抜けていく。

その作戦でなんども起動歩兵の群れのなかへ飛び込んでいった。

一瞬で駆け抜けるせいか、機銃による攻撃が行われない。

次第に起き上がれなくなってきた起動歩兵が増えてくる。脱落したものたちが砂漠の大地に横たわり初めている。


あと少し。


歩兵の数が半分に減った。この調子でいけば時間までに全て倒せるのではないか?


そう思った時、俺の体を起動歩兵の銃弾が突き抜けた。


衝撃のあと、左肩に強い灼熱感を感たがアクセルを開けて一気に走り抜けようとした。

しまった、安心して一瞬アクセルを緩めてしまったか。


しかし、ジョッグがまともに動かない。熱を持ち始めてきた。

さっきの攻撃で重力炉がやられたらしい。


「ミミリュ、とび降りろ!」


と言いながら振り向くと、ミミリュは気を失っていた。

銃弾が俺の体とミミリュの体を貫通していたようだ。俺は左肩、ミミリュは右耳の上から血が溢れている。頭をかすったのか?


とっさに抱えて飛び降りる。起動歩兵の後ろに俺たちは転げ落ち、無人のジョッグは起動歩兵のなかへ突っ込み爆発、重力振動を発生させた。

どうやら、俺が積んでいた発砲筒の弾薬も誘爆していったらしい。


起動歩兵がなぎ倒され、そこに小型の高重力特異点が生じる。


一瞬の出来事であるが、近くにいるものは全てその重力にやられ、崩壊してゆく。



俺は砂漠に倒れこみ、砂丘の影に隠れその様子を見ていた。

先のほうで重力により光が曲がり、粒子が摩擦し電気を発していくのが見えていた。眩しい光が目の前を覆い、砂の巨大な渦が俺たちを飲み込んだ。


光と砂に埋もれ、薄れゆく意識のなかで俺はミミリュに悪いことをしたと思った。

このままでは、ナバルへの復讐ができそうにないからだ。

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