第4話
6月21日 - 日本を含む世界各地で日食が観測される。日本国内では部分日食となった。
幕末から戻ってきた近田は久々に京都府警に顔を出した。
「おまえ、今の今までどこに行ってた?」
新見は眉間に皺を寄せていた。
近田は新見が阿部サダヲに似てるような気がしてならなかった。『池袋ウエストゲートパーク』『アンフェア』『マルモのおきて』などに出てる。
「東山にある廃墟に監禁されていました。磐梯さんもそこにいるはずです」
近田は前もって考えておいた嘘を吐いた。
東山は、北は比叡山(京都市左京区、滋賀県大津市)から南は稲荷山(京都市伏見区)までとするのが一般的である。狭義には、比叡山を含めず山中越の南の如意ヶ嶽(大文字山)(京都市左京区)から南を指す向きもある。
『東山』とは一つの山系の名ではなく、京都の中心部から見て東に見える山を指す。したがって、他の山と鹿ヶ谷で隔てられている吉田山が含まれる一方、比叡山の北に連なる比良山系の山は含まれない。
『東山』の呼称は古くは平安時代にも用いられたことがあるが、一般的になったのは室町時代以降である。
東山の山麓には多くの神社・寺院がある。その中には伏見稲荷大社、清水寺のように平安京よりも古い歴史をもつものもある。また山麓は平安時代から近代にかけて、京都の皇族・貴族や武士の保養地であった。特に足利義政の東山山荘(現慈照寺、通称銀閣寺)は有名である。現代ではこれらの寺社・庭園が、東山の景観とともに観光客の人気を集めている。
「ああ。あのピエロの人形が飾られてある不気味な洋館か」
「確か、昔はイタリアンレストランだったんですよ」
「随分詳しいな?」
「生まれも育ちも京都ですからね〜」
新見は東京出身で、3年前に京都府警にやって来た。
「早く磐梯さんを助けないと……」
磐梯は幕末からこっちに戻っていなかった。きっと人を殺してないからだろう。
「あいつは死んだら、そこそこの刑事になるだろうよ」
「は?」
「馬鹿は死ななきゃ治らないってよく言うだろ?」
「なるほど〜」
「おまえを監禁した奴の人相は?」
「目隠しされてたからよく分かりません」
我ながらナカナカの嘘だと、近田は思った。
「
デスクで書き物をしていた杉山と月島が立ち上がった。2人は両方、28歳だ。杉山は伊藤英明に似ていて、月島は上島竜兵に似ている。
杉山たちが刑事部屋を出ていく。
近田は歩いて室町大学に向かった。
京都市内の繁華街から離れた古都の風情を残す落ち着いた環境の中にあり、何事も学生の自主性に任せるという『自由の学風』を標榜している。リベラルな学風の傾向にある。
初代校長の銅像、
ケータイで隠し撮りした島田の写真を初老の守衛に見せた。
「すみません、この人知りませんか?」
初老はケータイを受け取り、老眼鏡を掛けて見た。
「ああ、
初老の守衛の苗字は村田というらしい。ネームプレートが少し曲がっている。
蕗島は4月に入ったばかりの守衛らしい。
守衛なら自由にキャンパス内を行き来出来たはずだ。三村は蕗島に深夜のキャンパス内に呼び出された。蕗島は『この学校内には財宝が眠ってる』とか嘘を吐いて三村を呼び出し、ナイフで刺した。
「あんた、警察か何か?」
ケータイを近田に返し、村田が言った。
近田は警察手帳を掲げた。
「警部補ってどれくらい偉いの?」
警部補とは、警察組織で採用されている9段階の階級制度において、上から7番目、下から3番目にあたる階級である。 「警部」の下、「巡査部長」の上が「警部補」。 交番の責任者(俗に「ハコ長」と呼ばれる者)になれるのは、この警部補からとなる。
「古畑任三郎知ってます?」
「あ〜、今泉が観覧車に閉じ込められるシーンは面白かったな」
「古畑は警部補なんで、彼と同等になります」
無線が鳴ったので近田は出た。相手は新見だった。
《例の廃墟で身元不明の遺体が発見された。おまえもそっちに向かってくれ》
身元不明ってことはかなり腐乱してるのだろうか?吐き気がしてきた。
「分かりました」
その頃、麻美は湯川ってデブの講義を受けていた。麻美はガリレオファンで最初は福山雅治みたいなイケメンを想像していた。
「ペリー来航以来、尊王攘夷論は急激に広がり、倒幕論と合体していく。幕府の独断による日米通商航海条約、反幕府勢力の弾圧、大老・井伊直弼の暗殺など、激動する情勢の中で京都は再び政治と抗争の舞台となった。尊攘派による暗殺が横行する京の町は火曜サスペンス劇場も真っ青だった」
階段教室は爆笑の渦が起きたが、麻美は何が面白いのか分からなかった。
早く講義終わらないかな〜。腹が減って倒れそうだ。
あの首を私のもとに送り届けた宅配者はパパやママを殺した犯人のひとりじゃないか?麻美はそう思うようになっていた。
あ〜マスクが苦しい。蒸してるのにマスクをしなきゃいけない!中国、マジでムカつく!
麻美はあの凄惨な事件の夜、ミッキーマウスとダンスをしてる夢を見ていた。そしたら、下で足音や悲鳴などが聞こえてきたから、ベランダから飛び降りて逃げたのだ。不思議なことに足をケガしたりしなかった。全速力で交番まで掛けたのだが、運の悪いことに出払っていた。
しどろもどろになってるところを若い女性に声をかけられた。
『お嬢ちゃん、どうしたの?』
『パパとママが大変なんです!』
『瑠璃子、どうしたんだ?』
カレシと思われる鼻が高い男が瑠璃子に言った。
麻美は事の経緯を話した。犯行を目撃したわけじゃないからうまく説明できるか不安だったが、男性は『小さいのにお話が上手だね』と褒めてくれた。
彼の名前は
宇喜多は自分のアパートに麻美を匿ってくれた。
『瑠璃子は麻美ちゃんと待っててくれ』
『1人じゃあぶないんじゃ?』
『仲間を連れて行く』
瑠璃子はホットミルクを作ってくれた。
麻美は恐怖と不安で眠れなかった。刑事なんてのは嘘で犯人の仲間なんじゃ?という疑いを捨てきれなかった。
時間が過ぎるのは呪いでもかけられているかのように遅かった。
瑠璃子のスマホが鳴った。麻美はソファでうつらうつらしていたが、体をビクつかせた。
通話を終え、彼女は残酷な現実を麻美に話した。
『お父さんとお母さんは亡くなっていたそうよ』
「これで今日の講義は終わりとなる。各自でまとめておくように」
湯川が階段教室を出ていく。
回想してる間にかなりの時間が過ぎていた。
遺体は厨房にあり、蝿がたかっていた。
近田は遺体を見てゲロが出そうになった。
「まさか、磐梯さんってことはないよな?」と、月島。
「死体ってどうやって腐るんだ?」と、杉山が豊前に尋ねた。
「いい質問です。本来は食べたものを消化する胃液等が、死亡後は胃や腸そのものを溶かしてしまいます。 そこからさらに放置していると腸内の細菌と胃腸の融解が進み、それに伴い全身の腐敗も進みます。 その際に、体内で発生する腐敗ガスの中に含まれている成分が反応を起こすことで、遺体の腹部は徐々に淡い青色に変色していきます」
近田はゴミ箱に吐瀉物を撒き散らした。
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