第2話

 6月17日

 宮城県、福島県、山形県などで5時頃から昼過ぎにかけて気球のような白い物体が上空を飛行しているのが目撃される。被害は生じなかったものの、運用者、用途等は全く不明だ。


 磐梯ばんだい刑事はパウエルってイケメン俳優のアパートにやって来た。アパートは梅小路公園の近くにある。

 彼は自慢の顔面を切り裂かれていた。

 が、直接の死因は首を絞められたことによる窒息死だった。

 磐梯は物凄く忙しかった。一条杏花いちじょうきょうかという女子高生の行方も追わないといけなかった。

 磐梯が勤める京都府警に血塗れの服を着た男が自首してくる。彼は取り調べを受けるが、本名、経歴、目的は一切不明であった。島田という偽名を使っている彼は弁護士を通じて、磐梯と、磐梯の相棒である近田ちかだの2人を指名し、彼らにある男の死体の隠し場所を教えるという。

 磐梯は近田に嫉妬していた。最近結婚して、10歳も年下の美女と結婚し、さらに宝くじに当たった。それに比べ、磐梯は上司の新見博之にいみひろゆきから怒鳴られ、酷いときは頭をバシッと叩かれる。


 磐梯と近田は取引に応じ、島田は2人を伴ってある場所に連れて行かせる。耳隠森という室町大学体育館の地下にある不思議な空間だ。島田はボールペンみたいな機械を持っていた。

 島田は人を殺す度にタイムスリップが出来るそうだ。ボールペンのノックを押すことで異世界へ行ける。磐梯は幕末世界に来たと島田が言ったとき失神しそうになった。

 森の中には若い男性の遺体があった。

 島田がいうには三村みつむらって男で背中にはナイフが刺さっていた。

 

 麻美が深夜2時の花園駅前でスマホのリバーシで遊んでると、宅配便の車がやってきて1つの小さな箱を置いていく。麻美が調べると、箱の中には伊藤麟太郎いとうりんたろうの生首が入っていた。杏花をレイプしたゴミの1人だ。

 麻美は伊藤の相棒である三村に電話したが繋がらなかった。「あのブロリー」三村は気に入らない奴はすぐにブロックするのでブロリーと呼ばれていた。

 

 磐梯は島田が室町大の生徒か教授だろうと推理した。

「磐梯さん、幕末って言ったら何を想像します?」と、近田。

 森の中は不気味な鳥の声が聞こえる。ミミズクかフクロウかは不明だ。🦉

「新選組」

「僕は渋沢栄一だな。来年の大河ドラマ楽しみだな〜」

 磐梯も大河ドラマは好きで『麒麟が来る』を見てる。母は明智光秀演じる長谷川博己の大ファンだ。

 島田はどこからともなく現れた刺客に斬り殺されてしまった。

 磐梯はホルスターから警察拳銃のリボルバーで応戦した。1発目は空砲になっているから威嚇目的で撃ったが、刺客は物怖じせずに正面打せいがんうちを仕掛けてきた。大きく振り上げず、切先が天を制す程度で止め、そこから身体を沈め刀に全体重を乗せ一気に打つ技だ。

 刺客の背後から近田がリボルバーを撃った。刺客は2発目で絶命した。

「おまえ、最初の弾丸は込めないって警察学校で習わなかったか?」

「俺はルールとか嫌いなんですよ」

 

 刺客の正体は田中新兵衛。元々は武士の生まれではなく、鹿児島の伝承では薩摩前ノ浜の船頭の子、または薬種商の子と言われる。史料で島津家一門の島津織部家臣、つまり、薩摩藩では私領士という陪臣身分とされているが、これは鹿児島城下屈指の豪商で、尊皇攘夷の士でもあった森山新蔵が、士分の株を買い与えたからで、本人も商人から士分になった森山の持ち船の船頭であったと言われる。


 新兵衛は幼少期より武芸に励み、剣術に優れていた。流派は厳密には不明であるが、城下で育っていることから、一般的には示現流の分派のなかのどれかと考えられている。


 文久2年(1862年)5~6月に上京。海江田信義や藤井良節(藤井良蔵)の元に身を寄せた。そこに小河弥右衛門が安政の大獄で長野主膳に協力した島田左近が伏見にいると知らせてきたので、これを6名で暗殺しようとしたが失敗。新兵衛はその後1ヵ月間、左近を付け回し、7月21日、京都木屋町で襲撃。逃げる左近を加茂川の河原まで執拗に追いかけて斬首し、先斗町でさらし首とした。


 8月、小河の仲介で、土佐勤王党の武市瑞山と引き合わされ、武市と義兄弟の契りを結んだ。以後、新兵衛は岡田以蔵などと徒党を組み、暗殺を示唆された相手を次々と手にかけるようになった。本間精一郎、渡辺金三郎、大河原重蔵、森孫六、上田助之丞などを集団で襲って暗殺したと言われている。


 文久3年5月20日(1863年7月5日)、朔平門外の変で姉小路公知が複数名に襲撃されて暗殺された。この事件の現場で投げつけられ、残されていた刀が新兵衛の愛刀であり、薩摩下駄も残されていたことによって、新兵衛が犯人と断定されて仁礼源之丞等と共に捕縛されたが、通説では刀は数日前に盗まれたものというが信憑性は不明。新兵衛が負っていた傷も生き残りの証言と一致していた。

 

 近田はボールペンを拾った。

「コイツを仕留めたのは俺です。もらう権利はありますよね?」

 また先を越された!

 磐梯は38歳。対する近田は30歳、階級は共に警部補だ。

「イズミ、おまえはすごいなぁ」

 唐突に近田はボールペンに向かって喋りだした。

 磐梯はリボルバーをホルスターにしまいながら怖いと思った。

「イズミって誰だ?」

「昔飼ってたインコです。老衰で死んじゃったんですけど、弟が死骸を焼いて食ったんです」

「キモッ! 早くノック押せよ。おまえ人殺したから令和に戻れるぞ」

「もしかしたら戦国時代に行っちゃうかも」

「それは面白いかもな?」

 磐梯は令和に未練はなかった。恋人もいないし、怖い上司からパワハラされるし、楽しみだった旅行もコロナのせいで自粛してる。

「せっかくだからもう少し、この時代を楽しみません?」

「いいから早く押せよ! 明智光秀ってマジで禿げてたのかな? カツラでも土産に買ってってやろうぜ?髪がフサフサだったら、金柑頭ってバカにされなかっただろうし? 本能寺の変も起きなかったかも知れない」

「ドン・キホーテで安く売ってた」

 近田は髪が薄くなりつつあるのを気にしていた。 

「ハゲ死ねよ」

「酷いっすよ!」

 磐梯はホルスターからリボルバーを取り出し、銃口を近田に向けた。

「うるせー! 新見に気に入られてるからっていい気になんなよ!?」

 磐梯は撃鉄を起こした。

「目が怖っ」

 磐梯の目は血走っていた。

 近田は恐る恐るイズミのノックを押した。カチリ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る