飛びおりを見た

出勤中の出来事だ。


駅から歩いていると、ふと

遠くにある10階建てのビルに目がいった。


屋上に棒状の黒い影がいて

ゆらっとゆれて呆気なく落ちた。


飛びおりだ。

そう分かった瞬間体が冷たくなって

感覚が消えていく。


見なかったことにしてその場を立ち去った。


翌日。

またあのビルに目がいく。

そこには黒い影がいてゆらっとゆれて落ちた。


また次の日。

同じように影が落ちた。


次の日も、次の日も。

人間が落ちる。

同じ姿の人間が同じ時間に落ちる。


1ヶ月経って、気づいたことがある。


最初は影にしか見えなかったそれが

同じ服装の人間に見え始めていることに。


そして、

遠く離れている10階のビルの屋上にいる

人間の服装が見えるはずがないことも。


最近はそれの顔も見えるようになった。

どこかで見たことがあるその顔は

毎朝、髭剃りをする時に必ず見る

馴染みある顔だった。


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