気づいた?

春になり、役目が無くなった電気ストーブが邪魔くさくなった。


そんな六畳一間の狭いワンルームで、

俺は机の上のデジカメとにらめっこしていた。


これは昨日、古びた喫茶店でRという元同級生から返してもらったものだ。


同じ中学ではあったがあまり話したこともない、陰気な雰囲気の男で、卒業後は何の関わりもなかった。


生き物係で帰宅部だったということしか覚えてない。


社会人になり5年目も経ってから、突然Rから電話がかかった。



同窓会の幹事をしていたから、

電話番号は知っていた。


でも、何度誘っても来なかったRから連絡が来るということに、ただならぬ事態を察した。


恐る恐る出ると内容はなんてことない。

「デジカメを貸してほしい」というものだった。


スマホなんて便利なものがあるのになんでわざわざデジカメなんだ?と引っかかりはしたが、

たまたま持っていたし、断る理由もなかったから了承した。


そこからRが指定した喫茶店で渡し、

1ヶ月後の昨日、同じ場所で落ち合って返された。


(一体何を撮ったんだ。)


フォルダには普通の民家の写真が。


意味がわからず困惑すると、一軒見覚えのある外装があった。


白い壁に茶色の瓦屋根、丸みのあるドアに特徴的なポスト...


俺らが高校時代に、近所で幼児連続殺人事件が起きた。

犯人が未だ不明の事件で、この家は最初の事件が起きた現場だ。


(あいつはわざわざなんでここの写真を撮ったんだ?まさか...。)



俺はスマホで当時の事件を検索する。


案の定、出てきたニュースには今デジカメに入っている民家と同じ写真が添えられていた。



有名新聞の記事の最後、

犯罪心理学者のコメントが載せられていた。


『犯人はもう一度犯行現場に行く傾向がありますから、根気よく捜査を続けてもらいたい。』



嫌な汗が背中を伝う。

同時に、玄関からガコンという音がした。



震える足で立ち上がり、音がした郵便受けを開く。



そこには小さな子供の靴がひとつ。

指先でつまみ上げて取り出し、「うわぁ!」と放り投げた。



ゴロッと転がって見えた靴の底には

油性の黒いマジックで

“気づいた?”

と書いてあった。


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