肉屋の看板


肉屋の看板にはよく

ポップにデフォルメされた、

牛や豚の絵が描かれている。


その元祖とも言われる肉屋が

実はH県の〇市にあるというのは

地元民しか知らない。


というのも、現在その肉屋は

看板に動物のイラストを使っていないからだ。


むかし、店主にその理由を聞いたことがある。




「今から30年前かな。

店を開いてそれなりにお客がついてきた頃、

年末にすき焼き食うとかで売上があがったんだ。


それで気分よく飲み屋に行って飲んでさ、その帰りよ。

突然ううっとめまいがしたんだ。

気がつくと、見慣れたようで見たこともない街にいた。


建物がずらってあるけど人気がない

飾り程度に付けられた窓、

入口のない家。

まるで、真似てるかのようだった。


しばらく歩いてたら、

ある看板を見つけた。


馬鹿な中学男子がふざけて描いたかのような、ハゲ頭のイラストだけがドンとあった。

全身じゃないよ。首から上だけ。

眉もなくて、写実的じゃないんだけどリアルなんだ。


なんだここって思って近づいたら、

まんま俺の店なんだよ。

ショーケースにはつやっとした赤い肉が並んでてさ。

新鮮なことがぱっと分かる。


驚いて入ったら奥から物音がしてた。

仕込みをする厨房からだ。

そーっと覗いたら、ギョッとしたね。



向こうが透けるぐらいうっすい灰色の人間が、

まな板の上に全裸で寝かされた

俺と同じ、肌色の人間の髪の毛を


ぶちっ


ぶちっ


って抜いてたんだ。



唖然とする俺の後ろで、何かがいる気配がして、振り向いた。


そこには、真っ黒な影が赤い口をぼかっと開けていた。


そこから、飛行機のプロペラみたいなさ

ばばばばばばって叫び声がしたんだ。



そこで、俺は気を失った。


気がついたら、こっちの

俺の店に戻ってきてた。

酔いはさめてて、手が震えてた。


あそこが何をしているところか

いやでも分かった。


だから俺はあの後すぐ、

看板にあった牛のイラストを塗りつぶしたんだ。


夢だとしても、気分悪いからな。」

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