すみませんでした


誰も見ることがない、マネキンの着せ替えを終えてレジ前のパイプ椅子に腰掛けた。

時計をいくら眺めても時間が進むはずはない、

が、

服の整頓はすっかりやり終えている。


床に乱雑に積まれたカタログやチラシを片付けようと持ち上げる。


ひらっと小さなメモ用紙が、ひとつの冊子から零れた。



冊子には、うちの店の名前が書いてある。

そういえば昔、オリジナル商品を作ったことがあったって言ってたっけ。


パラッとめくるとアメカジな服に身を包んだモデルがクールにポーズを決めている。


私の目は、服よりもモデルに釘付けになった。



ある女性モデルだけ、

どの写真にも右目が写っていないのだ。


本来目がある所が、肌色で塗りつぶされているのである。


最初はウインクかと思ったが、

表情的にありえない。


それに、塗りつぶしに使われている色があまりにも雑な色で、誰かが意図的にやったとしか思えなかった。



落ちた紙には

“芽倉写真館

 tel 019-××...”とある。


「懐かしいもん見てんね。」

声に顔を上げると店長が立っていた。

「オリジナルはもう作らないって話したでしょ〜。ここのせいなんだよね。もう捨てたと思ったんだけどな。」

店長はカタログを指さす。


「目、消されてるよね」

私は頷く。



「問い合せたんだよ。ここの写真館に。どうなってんだって。

そしたら...さ。こう言ってきたんだよ。」


店長は嫌な間を空けた。


「すみません、両目のはずだったんですが。すみません、すみません。...って。」

絶句する私に店長は続ける。


「その後、別のカメラマンにお願いしたんだけどさ、撮られたモデルが必ず目を怪我するんだよ。ものもらいとかもあったかな。ま、そんなわけ。

タバコ吸ってくるわ〜。」


店長が店から出た瞬間に、

私はパンフレットをゴミ箱に突っ込んだ。



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