熱狂的ファン
画家の卵であるD氏は、鳴かず飛ばずの現状に、神経をすり減らせていた。
口が達者なおかげで、女のモデルや衣食住に困ることは無い。
ただ、作品が売れず、自分の才能に自信を失っていた。
(他者から見れば、遊び歩き情熱もない、ただ上手いだけの絵に金が払われないのは当然であった。)
そんな彼をただ一人、熱烈に応援する女がいた。
彼女は昔、D氏に口説かれてモデルをしたのだが、それ以来すっかり彼に惚れ込んで、身の回りの世話を盲目的にするように。
適当に書いた落書きにも目を輝かせて「センスがいいわ」と言う。
果てには、自身がガリガリにも関わらずご飯を差し入れるように...。
とうとうD氏は気味悪がって、一切の連絡を断った。
支援がなければ、働く能もない。
資金源もなく、食うものもない日々が続く。
真夏の蒸した夜。
彼は椅子をリビングの真ん中に置いて乗り、天井からぶら下がる輪に頭を通していた。
暑さと緊張で汗が滲む。
意を決して椅子を蹴ろうとした、その時だった
「センスいぃいいわぁぁぁ!」
あの女の、歓喜の声が響き、左耳に生暖かい息がかかった。
驚いたD氏はそのまま椅子から転倒し、床に体を打ち付けた。
当然だが周りには、彼以外誰も居なかったのである。
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