今年の干支「うさぎどし」であいうえお怪談

【う】

海の近くで産まれました。

有名な歌にありますが、私達が住む町から港に行くには、急な坂道を下る必要があったんです。

行きは良いけど帰りが怖いと年寄衆は言っていましたね。

そこに住んでいたのは中学までで、高校に進学してから離れることになったんです。

年末、久しぶりに帰省しました。



【さ】

35歳になって突然、行事を手伝えと呼ばれましてね。白髪が増えた両親と特番を見ながら晩酌しました。

いや、酒を飲んだのは僕だけでした。もう歳だからって2人は飲みませんでした。年寄が増えたね、なんて話したのを覚えています。

2022年が残り10分を切った時、父に連れられ海に行きました。


【ぎ】

ギョッとしましたね。砂浜には既に何人ものおじいさんがいたんですが、1人だけ包丁を持っていたんです。

そこで、手首を切られました。

抵抗は出来なかったです。押さえつけられていたんで。

ポタポタと血が流れて、砂に滲む。

その上に、波がざーっと被さり、血を含んだ砂が盛り上がりました。


【ど】

泥の中から出てきたのは、赤ちゃんの腕。老人達が引っ張りあげると、砂まみれの赤子が産声を上げました。

それは、皮膚がなくて、真っ赤でした。

僕は周りの制止を振り切って、坂道を駆け上がり町から飛び出してきましあ。

とにかく、命からがら逃げてこの家の戸を叩いたわけです。


【し】

信じられませんよね。全く、年男だというのに、とんだ災難です。

ええ、僕は兎年なんですよ。

あ、今の時間から逆算すると…砂から生まれたあの子も兎年、ですね。


すみません、これでお暇します。

え?改めて、僕がどこでうまれたのかって?

初めに言ったでしょう。

海の近く、ですよ。


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