もっと下


ある人がさ、ビルの地下駐車場に行こうとしたんだって。


もう夜で真っ暗でシーンてしてる中、一人でエレベーターを待っていたんだ。


上から降りてきた箱の中に、一人の男が乗っていた。


もう疲れていたし気にせず乗ったら

ボロボロの作業着を着て俯くそいつが

『どちらに?』って言ったんだって。


で、当然地下駐車場にって言ったらさ、

『そうですか。それはいいですね。』

って言ってボタンを押したんだ。


訳が分からないだろ。


気持ち悪いなあって思ったけど、地下まであと少しだしって黙ってた。


数十秒が長く感じて、着いた時にやっと呼吸出来たってところで降りようとしたその人に男がこういったんだ。




『いいなぁ。俺はもっと下なんだよ。』




反射的に振り返って、言葉を失った。

男の顔がぐちゃぐちゃに潰れていたんだ。


後日調べてみたら、そのビルでは過去に、作業員が点検中に落ちてきたエレベーターに潰されるっていう事故があったんだってさ。



エレベーター待ってる時にそんな話すんなって?


わりぃわりぃ。

なんか思い出したんだよ。

ちょうど俺らもこれから地下駐車場に行くところだし。


誰から聞いたんだって?

えーっと、…あれ、思い出せない…そもそも、聞いたのかな…


まあ、いいだろ、そんなこと!

ほら、エレベーターが着いたぜ。




ガコンッ…ウィ…ン





「「あ」」






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