明かされた腹の内
ホテルの一室、乱れたシーツに包まれた全裸の細い女。
彼女は指先で男の足の裏をつつーっと撫で、足はビクビクと跳ねている。
しばらくして、女はごろんと横になり、
膨らんでいる腹を愛おしげに撫でた。
「ねえ、少し昔話をしてもいい?」
男の返事は無い。
出しっぱなしのシャワーの音だけが絶え間なく聞こえる。
「お返事ぐらいしてちょうだいよう。
ま、仕方ないかもね。
だって私、今まで貴方に自分のことを
話もしなかったから。
そんなことするの嫌だって
常日頃貴方に言ってたし。」
俯いて自身の張りつめた腹に目がとまり
女の頬が紅潮する。
「でも、ここまできたんだもの。
私ももう、貴方に全てを話していいかなって。
ふふっなんだか胎教みたいねぇ〜
よしよしっ。
やだ!お腹つつかないでよう!
うふふふふ。」
撫でる手の動きに反応するように、腹の一部が突き出してうねる。
「むかしむかし、ある所にね…
といっても、始まりは突然、ある娘のお葬式の場面からなの。
棺の中に白装束を身にまとった、黒髪の美しい少女が納められている。」
浴室の電気が消えた。
シャワー未だに鳴り止まない。
「みんな涙を流してお経を聞いていたらね、どこからか蛇がやってきたの。
その蛇は口から入り込んで、彼女の内蔵を食べちゃったんだって。
なんでそれがわかったかって言うと、お腹がぐらぐら波打ってたからなの。」
おぞましい内容の話であるのに、
一言一言実に楽しそうな調子だ。
「実の母親でも何も出来ないしまつ。
それで、しばらくしたら腹が破れた。
突き破って出てきたのはなんと、蛇のような顔つきの女!」
嬌声混じりに両腕を天井に突き上げて、
ひとしきり笑った。
大きく開かれた口の端がぴりぴりと裂けていき、腕は徐々に短くなって、胴がずずずと伸びていく。
そうして、彼女はもはや首となった胴をぐにゃあっと曲げ、
はち切れんばかりに突き出た腹に口を寄せて
囁いた。
「…その女の人というのが、
あなたが気になってた私の母なの。」
腹のうねりがしだいに弱々しくなり、そして、ぴたりとも動かなくなった。
「...ねえ、聞こえてる?
さっきから返事もしないけど、ねえ、もしもーし!うふふふ。」
ホテルのベッドの上には、芋虫のように腹全体を膨らませた女が一人。
側にあるのは、雑に脱ぎ捨てられた背広だけである。
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