雪の子達を思う



“おーい”


自分を呼ぶ声がする。

目を開けるとそこは一面が雪で

真っ白な丘。


吐く息は真っ白で、指先がじんじんしていて。

手を見ると毛糸で編んだ茶色の手袋をしていた。


手も足も小さい。

私は子供になった夢を見ているんだと分かった。


“冬芽ちゃん、あそぼ。”


私の周りを同じぐらい小さな子供が2人囲んでいる。

2人は着物を着ていて、裸足だった。


私達はでふかふかの雪に寝転がったり、雪だるまを作ったりした。


“冬芽ちゃん!バイバイ!”


2人は声を揃えて手を振る。

顔がぼやけて景色が真っ白になって、

私は目を覚ました。



「バイバイ… 。」


久しぶりの実家の布団はせんべいみたいに硬い。

ゆっくりと体を起こして、

さっき見た夢を反芻した。


意識がはっきりする事に私はあれが夢でなかったことに気づいた。


あれは、私が何年も忘れていた子供の時の思い出だった。



昨日、実家に帰ってコタツでぬくぬくしている私に、お母さんが言った。


「あんた、寒さに弱くなったねえ。」


そして、

戸棚からアルバムをひっぱりだして、

「ほら、この写真。雪だるまもささと作ってさ。目を離した隙にこんなに。」と笑った。



そのアルバムは今、私の枕元に置いてある。

寝る直前までページをめくって懐かしさに浸っていた。


私は子供の頃の私が雪で遊ぶ写真がまとめられているところを開いた。


その中の1枚に、雪だるまが3つ並んだそばで、私が誰かと手を繋ぐようにして立っている写真があった。



あんなに笑いあったのに

一緒に遊んだのに、

あの子達はお母さんの記憶にも、アルバムにも残らない。

そして、私の記憶にも、残らなかった。


“バイバイ”


目から涙が溢れ出た。


顔を洗って居間に行くと、

窓の外に雪がちらちら舞っていた。


テレビのニュースが、例年より早い初雪を伝えた。

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