霊媒師勝川さんの話【後編】
ペットボトルに触れたまま動けないでいる勝川さんに、坂東さんは気にすることなく一方的に自分の生い立ちや日々の暮らしについて話す。
しばらく雑談をしたかと思うと“さて”と膝を叩いて、依頼内容を話し始めた。
“電話の内容とかぶるんですがね、
一人暮らしだと言うのに
この家にいますと足音がしたり
話し声がしたりしますでしょ。
それがね、
どんな意味があるかを知りたいんですよ。
ね、なんて言ってるんですかね?”
前のめりになる坂東さんは気味悪くて半身を反らした。
「そんなふうに言われても、
たしかに、気持ち悪い空気で充満してたけど
言葉らしい言葉とか思いは
全く感じられなかったんだ。
どうしようかな、適当なこと言って帰ろうかなと悩んでた、その時だった。」
トスッ トスッ トスッ…
カリカリカリカリ…
くすくす…あはは…
廊下から、何かが歩く音、話す声が聞こえてきた。
2人以外誰もいないはずなのに。
それは遠くからだんだんと居間の方へと近づいてきていた。
勝川さんが震えたのは、その音のせいではなかった。
音が大きくなるほどに坂東さんが嬉しそうに笑うのが、怖かったのだ。
“ああ、聞こえますでしょ?ね?”
なんて言いながら勝川さんを見る目はらんらんと輝いている。
音はどんどん近づく。
そして、居間の入口に、ソレが立ち塞がった。
「形は人なんだ。でも、竹箒みたいに
頭は妙に細長くって、
足は末広がりに太くなってる。
全体は真っ黒なんだけど、
一つの眼球だけが赤く光ってるんだ。」
ソレは、話し声や足音などの生活音を、口らしき部分から発して坂東さんに近づき、
恐らく腕であろう部分を彼の首に絡めた。
その姿と行動のおぞましさに、
勝川さんは飛び退いて立ち上がり、
“化け物!”と叫び、
お祓いの呪文を唱えようとした。
その刹那、今の今まで笑っていた坂東さんが
無表情で言った。
“やめてくださいよ。”
凄みのある声に
勝川さんは頭が真っ白になって、硬直した。
“さっき話したでしょう。
私の依頼はこの音を発してる者が
伝えたいことを教えて欲しいと。
余計なことはしないでください。
親父から受け継いで、妻子と住んだこの家
我々家族以外の存在がいるはずない。
悪いものなわけないんですよ!
きっと家族が、一人残した私を心配して
来てくれてるんです!
この音の正体は家族なんでしょう!”
一息で言って喘ぐ坂東さんの首を
ソレは容赦なく締め上げる。
そして、くすくす、ねえねえ、トタトタと
生活音を発した。
“最期が看取れなかったから、
せめて、何か、して、あげなきゃと…”
首が締められて苦しいのだろうか。
息も絶え絶えに坂東さんは訴える。
勝川さんは、喉から声を絞り出して
尋ねた。
“御家族は、どうして亡くなられたんですか?”
彼の首に巻きついた腕が、更に締め上げる。
坂東は白くにごった目で勝川を見て、
その質問を待っていたかのように、
微笑んで言った。
“首の血管が切れての、突然死です”
勝川さんは、やっとの思いで
お邪魔しました、と言って出ていった。
「滑稽だよね、でも…。
他人だって示さないといけない気がしたんだ。
なんとなく、ね。」
勝川さんは力なく笑った。
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