運命の人



仕事から帰るでしょ?


面倒だからコンビニでご飯買ってくるでしょ?


床にあぐらかいて割り箸で気取ったサラダをつつくでしょ。



片手に持ったスマホがだるくてスマホスタンドに置くでしょ。


動画を遮る連絡なんて来るわけなくて。


学生の頃の私によると、今の歳にはもう子供がいて、素敵なダーリンだかと一戸建てに住んでいるはず。


隣の部屋との壁が薄い、時折ガタガタいうような安い家賃のアパートの一室にいるのはなんでだ。


友達も彼氏もいない事に、そして、こんな自堕落な生活を送っていることに、一人呆れているわけよ。






はしゃぐ動画配信者の声が、

ご飯が減るごとに耳障りになってきて、

そろそろ消そうかとのばした手が、

おすすめ動画に触ってしまった。



『もう近くにいる!?あなたの運命の人はどんな人?』


占い系は胡散臭くて見てなかったのに、

ああ、やってしまった。


面白半分に見たら、これがなかなか当たってる。


3年前に彼氏と別れたこと、家族構成は私が長女なこと…。



そんな具合にズバズバ自分のことを当てられたら信じたくなる。


楽しそうな口調で画面の中の占い師は言う。


『運命の人はほんとにすぐ近くにいるよ!

 あなたの事を見守ってる人。

 くりくりで真ん丸なお目目がチャームポイント!』



目が可愛い人、か。

そんな人いるのかな。



「いたらとっくに付き合ってるっつーの。」


占い師に悪態ついて、ゴミを片付けた。


ベッドに入ると思ったより溜まっていた疲れが全身にのしかかる。



眠りにつくのに、そう時間はかからなかった。







バツン

    バツン



何か、ゴムが切れるような音がする。



耳障りで目をそっと開いた。



枕元には、真っ白な顔をした細身の男の人が立っている。

その目は異様にまん丸い。



いや、丸いというか…


ああ、白い両頬にてらてらと光る何かが一筋流れている。



丸い、丸いに決まってる。


だってその人には、瞼がなかったのだから。



男が左手を床に向かって振ると

ビチャッと音がした。



右手にはキラッと光る鋏。




「俺の運命の人は、

 耳が小さくて、唇が薄い人なんだ。」




あれ、怖くて体が動かない。



え、そんな考えてるうちに耳を掴まれてない?





             ど、どうし




         バ



         ツ



         ン





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